旧きを知る新しき友 ページ28
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二日酔いに頭を痛め、寝ぼけ眼で体を起こした。
広い寝台には私だけ。この部屋には見覚えがあって、つまり───また、鍾離の家だ。
はあ、と溜め息を吐くと、鍾離が姿を現す。
「起きたか。体調はどうだ？」
「おかげさまで。ごめん、先生」
「謝る必要はない……が、次からは気をつけてくれ。ひとりで飲んでいるときにあんなふうに潰れたら、いくら腕の立つお前でも危険だからな」
「うっ……肝に銘じます……」
まったくもって言う通りである。
「わかればいい。それで、花火は夜だろう？ 昼の予定は？」
何も考えていなかったけど、せっかく璃月に来たのだし、何かするべきだろう。やっぱり、観劇かな。講談を聴くのもいいかもしれない。
「おすすめはある？」
「おすすめか？ そうだな……雲翰社の劇は見尽くしただろう。なら、和裕茶館で講談を聴くのはどうだ？ あるいは、万民堂や琉璃亭で食事をするのもいい」
鍾離は寝台のふちに腰かけ、優しげな視線を私に向ける。
「お前に任せよう。何をしたい？」
その口ぶりは確かに友に向けたものであり、明らかな慈愛が含まれていた。それを、嬉しく思う。彼は記憶を失った私を責めるでもなく、思い出すことを強制するでもなく、新しい友として接してくれた。
だから私も、旧きを知る新しい友として、彼と接したい。
「万民堂に行こう、鍾離さん。ボクがいなかったあいだ、この国で何が起こったのか聞かせてください」
ボク、は過去より生きる『イティアメネウ』のことだ。
私は、過去の自分と今の自分を、どこか乖離させて認識している。以前のボクが体験したことは実感こそあるがなんとなく他人事で、私が生きてきた二十八年間のほうが、ずっと実感があった。
数千年と二十八年。比べるまでもないほど歴然の差だけど、最近のことのほうが思い出しやすく、追体験しやすいのと同じだ。古い過去は思い出となる。
「ああ。お前に話したいことはたくさんある。いつ発つんだ？ それまでに話し終えられるかわからないからな」
鍾離はいたずらっ子のような微笑みでそう言った。
「あすには……早く礼を言いたいし、八重堂から依頼されてた挿絵も納品しなきゃいけないから」
最近はバタバタしていて忙しかったが、仕事はちゃんと済ませてる。この挿絵で売上に貢献できればいいんだけど。
「そうか。では時間も惜しいし、早速出かけよう」
穏やかな微笑に連れられて、私たちは家を出る。
朝方の璃月は、既に人々で賑わっていた。
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作者名：荒矢式 | 作成日時：2022年11月18日 4時
