薬指の約束

祝福 ページ12

✩*＊・




「おめでとうございます、妊娠9週目ですね」









にこやかにそう言ったお医者さんは
私のどうしよう、という表情を見て、察したらしい。



「悩んでいるのなら、相手の方としっかり話し合って決めなさいね。あなた1人の問題ではないのだから。」




本来なら喜ばしいこと。



だけど、今の私には余命宣告をされたように重くのしかかっていた。



お腹の子には罪はない。


だけど、父親がいないことで辛い思いをさせてしまうのではないか。



1人で育てていけるのか。




そればかりが頭の中をグルグルしていて、
お医者さんが「決断は早い方が」とか説明をしていたけど、ほとんど頭に入って来なかった。









病院からの帰り道、そのまま区役所に寄り、母子手帳をもらう。


母子手帳を開くと、


父親の名前


を記載する欄があって、意識してない内に
涙が溢れでてきた。






「っ…、…っどっぽ…」




道端で母子手帳を握りしめて、しゃがみ込み泣き出す。


側から見れば、ヤバい女だと思われるかもしれない。









『…泣き虫だな、お前』




ふ、と聞こえた独歩の声。


いつだったか、泣いてしまった私に
そっと抱き寄せながら独歩が呟いた言葉。



『、泣き止め…俺がずっと側にいる、から。』







ねえ、いないよ。




離れて行かないでよ。







聞きたいこと、言いたいこと



いっぱいあるよ。





でも、貴方と向き合うことをやめて
逃げ出したのは私の方。






独歩にとっては望んでないことかもしれない。






でも、私にとっては唯一の貴方との繋がり。





全て捨ててきたはずの繋がりだから。









この子だけは守らせてね。

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