第32話 ページ32
家を飛び出したAは普段よく行っている最寄りのコンビニへ走った。
何時もおやつを買うあのお店なら、兄ちゃんを元気に出来るものも売っているかもしれない。
幼児の体では最寄りでも距離がある。
息を切らしながら何とかコンビニへ到着した。
入店音を聞いた大学生の店員が奥から出てきて、Aが一人でうろうろする光景に目を見開く。
こんな早朝に、こんな小さい子が一人で来たのだから、当たり前だろう。
おやつの陳列棚で止まったAに目線を合わせて声を掛けると、人見知り故声を上げてビクつき涙目になってしまった。
「君、ママと一緒じゃないの?おつかい?」
『ゔ…』
服を握って俯いた後、持っていた鞄を漁って紙切れを店員に渡した。
それは、ままごとで遊んだ際にモトキと一緒に作った画用紙のお金だった。
『にちゃの、おくすりください』
「おくすり…?」
『にちゃ、こんこんしてる』
拙い言葉で一生懸命シルクの不調を訴え、それを治す薬が欲しいと頼んだ。
風邪を引いた時に飲む薬がある事と、お店の物はお金で買うという事は、このおもちゃのお金を作った時にモトキから教えて貰ったばかりだった。
『しうくのおくすり、ください』
何度もお願いしてペコりと頭を下げる。
薬局ではないし、大きいとも言えないコンビニなので薬も限られてきているが、数少ない中から効き目のありそうな風邪薬をレジへ持って行った。
しかし、Aが持っているのは偽物のお金。
真っ先にそれを出したという事は本物のお金は持っていないとみた。
「ちょっと待っててね」
店員は事務所から自分の財布を持ってきて薬のお金をAの代わりに支払った。
処理が終わった薬をAの鞄に入れて頭を撫でる。
『ありあとう、ごじゃます』
また頭を下げて出ていこうとしたAをチラリと時計を確認した後に止める。
「ごめんね、このまま帰してあげたいんだけど、ちょっとだけ待っててくれる?」
『う?』
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作者名:憐 | 作成日時:2018年7月13日 4時