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番外編―チェス― ページ31

《太宰と夢主のチェスは……》



 



月がぼぅ…と朧げに揺らぐ宵闇の中、二つの影がチェス盤を挟んで対峙していた。


熟考の末に駒を動かしたA。
しかし太宰は息を吐かせる間も与えず駒を進めてそれに応えた。

将棋の早指しか……とAは胸中で突っ込む。


「私とやっても詰まらないだろう?」

少し彼女の表情が歪んだことに気付いてか、太宰は問うた。


「詰まらなくはないです」


だがAは駒を動かし乍らそう答える。
太宰は興味深い、といった表情で「何故だい?」と問いつつ駒を進めた。



まるでそこに駒が置かれると判って待っていたかの様な一手一手の早さ。

……否、実際に太宰には判っていたのだろうと思う。


頬杖をついて微笑む太宰を見て思わず溜息が漏れた。



「寧ろ、詰まらないわけがないです。

貴方の思考に触れることができるんですから」



暫く考え込んでから駒を進めたA。すかさず太宰の駒が行く手を阻む。


「こんな展開ばかりでもかい?」

「えぇ。始めから判っていたことですから……貴方に盤上の凡てが見えていることなど」


Aは小休止に傍らの紅茶に口を付けた。



「此処までの流れも、これからの展開も……ひいては私がどのように負けて自分がどのように勝つのかも――……貴方は凡てを知っている」


相も変わらず指を組んでにこりにこりとしている太宰をAは鋭い視線で一瞥し、ふいと目逸らした。



「いえ……“知っている”というより寧ろ私を“操っている”と云うべきでしょうか」

「まるで私を神のように形容するね」



眉尻を少し下げた太宰に、紅茶の水面を眺め乍ら「真逆……」と鼻で笑ったA。



 



「まだ、神の方がタチが善いですよ」



そう答えてもう一度紅茶に口を付けたA。その唇はカップの向こう側で弧を描いていた。




 
 



―――――――――――――――――――――――


結論:チェスと云う名の禅問答。



 

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ギラッフェ(プロフ) - こゝろさん» はじめまして。コメントありがとうございます!応援とっても嬉しいです!これからも宜しくお願いします。 (2018年12月23日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
こゝろ - とっても面白いですね!これからも頑張って下さい!更新楽しみにしております!…あの、ドストエフスキーの一人称は「私」ではなく『ぼく』ではないでしょうか? (2018年12月23日 10時) (レス) id: 383b340c0d (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - かなさん» コメントありがとうございます。お読みになりましたか!そうですよね、共有せずにはいられないほど衝撃的ですよね……。そろそろ更新しようと考えておりますので是非お待ち下さい。 (2018年12月17日 20時) (レス) id: 78a130b852 (このIDを非表示/違反報告)
かな - 新刊読みました!!ヤバかったですね??この先の小説の続きも気になります!! (2018年12月17日 0時) (レス) id: 5a88057d9b (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - あやなさん、はじめまして。思いの込もったコメントをありがとうございます。こんなにも熱い応援をしてくださる方がいるんだと思うと胸が一杯になります。 銀魂の方も読んでくださってるんですね!本当に嬉しいです。これからも両作共々宜しくお願いします。 (2018年11月30日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2018年8月14日 9時

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