ep160 ページ19
ヘリの中では沈黙が漂う。
暫しして、それを慎重に解きほぐすように国木田さんが呟いた。
「真逆……マフィアに助けられるとはな……」
「助ける?莫迦云え。お宅の社長が首領と取引したんだよ」
……取引?……そんな話は聞いていない。
「救助の対価は『社員一人のマフィア移籍』だ」
全員の息を呑む音が共鳴する。
「使いやすい異能犯罪者は大歓迎だぜ」
「社長が……!?」
驚きを隠せないのは私も同じだった。
「一寸待って下さい!共同戦線があるのに何故、態々見返りを求めるんですか」
「ポートマフィアと探偵社の共同戦線は対組合だ。今は成り行きで対ドストエフスキーにはなっちゃいるが――」
対《猟犬》ではないから今回の救助には対価を貰う、ということか。
確かに《猟犬》含む国家権力を敵に回すのはポートマフィアにとってもリスクが高い……。
私がそう思慮を巡らせる傍らで探偵社の面々も同じ結論に至ったらしかった。
取り敢えず匿うことさえ出来れば後の対策は立てようがある。これで善かったのだ。
皆がそれぞれに現状を心に留め、前を見据えようとしていたその時――――
ガンッ――……
金属を貫くような鋭い音がして、見れば胸を刀身に貫かれた賢治君がいた。
唖然とする私達の目の前でその刀の先は折れ曲り、それに掴まって《猟犬》の隊員がみるみる迫って来る。
「おいおいマジかよ……何だあの怪物……」
「悪邪即滅――――『雪中梅』」
「拙い!あの怪物野郎、ヘリの回転翼をぶった斬る気だ!」
そうなれば私達は諸共、墜落して灰塵に帰す。
「中原幹部、重力操作で――――」
しかしその時、私の言葉を遮ってヘリの扉が開かれた。
「谷崎、必ず真犯人を暴け。頼んだぞ」
「国木田さん!?」
――駄目だ……。
それだけは……駄目……。
「国木田さんッ!」
私は手を伸ばす。
触れれば――……触れられれば国木田さんを守れる……。
だがその手は指先に、何時もの彼には到底似合わない作業着の布地を掠めただけ。
国木田さんは眼下へと落ちていった。
「我が名は国木田独歩。我が理想は堕ちぬ!
この『生命』を燃料として永遠に飛び続ける!」
ドォンッ――――……
爆発音が遠退く――……
誰かの絶叫が遠退く――……
私は国木田さんを救い損ねた手をその侭に、眼前の虚空を見詰めていた。
まるで、未だ其処に彼が居るかのように――――。
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ギラッフェ(プロフ) - こゝろさん» はじめまして。コメントありがとうございます!応援とっても嬉しいです!これからも宜しくお願いします。 (2018年12月23日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
こゝろ - とっても面白いですね!これからも頑張って下さい!更新楽しみにしております!…あの、ドストエフスキーの一人称は「私」ではなく『ぼく』ではないでしょうか? (2018年12月23日 10時) (レス) id: 383b340c0d (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - かなさん» コメントありがとうございます。お読みになりましたか!そうですよね、共有せずにはいられないほど衝撃的ですよね……。そろそろ更新しようと考えておりますので是非お待ち下さい。 (2018年12月17日 20時) (レス) id: 78a130b852 (このIDを非表示/違反報告)
かな - 新刊読みました!!ヤバかったですね??この先の小説の続きも気になります!! (2018年12月17日 0時) (レス) id: 5a88057d9b (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - あやなさん、はじめまして。思いの込もったコメントをありがとうございます。こんなにも熱い応援をしてくださる方がいるんだと思うと胸が一杯になります。 銀魂の方も読んでくださってるんですね!本当に嬉しいです。これからも両作共々宜しくお願いします。 (2018年11月30日 17時) (レス) id: b3908f46f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2018年8月14日 9時