happIness*2-10 ページ10
.
夕飯を向かい合って食べたのは久しぶりだった。
今日はレギュラー番組の収録だったらしい彼が、
メンバーのことを話してくれて、私はそれを聞きながら笑った。
.
こうやって翔くんが私のことを見てくれているだけで、
黒いノートに書きとめるような思考は停止して、
声のことも、黒川さんのことも考えずに済んだ。
白衣を着たあの人が言っていた「健康な心」っていうのは、
もしかしたらこういうことなのかもしれないと、ふと思う。
.
食事のあと、ソファに座ってテレビを眺めている彼の隣に座る。
いつもより早い帰宅の翔くんと、こうやって並んで座るのも久しぶりな気がした。
ぎゅ、と膝を抱えて目を閉じる。
聞こえてくるのは騒がしいバラエティの音で、
息を吸うと、ふわりと大好きな匂いが香る。
.
「…A？」
.
ふと名前を呼ばれて、閉じていた目を開けた。
どのくらいそうしていたのか、灯りがまぶしくて眉を顰める。
私を呼んだ彼の方を見ると、やっぱり大きな瞳に私が映っていた。
.
「眠いの？」
「、」
.
今日だって散々うとうとしていたはずなのに、
あれは結局睡眠ではなかったらしかった。
瞬きをすると、腕が伸びてきて、あっという間に私の頭は彼の膝の上だった。
ごそごそ、と身体の向きを変えて、顔を上に向けたら、
上から見下ろすようにしている翔くんと目が合う。
.
目の下を温かい指がゆっくりと撫でる。
輪郭を確かめるように、顔の周りをゆっくりと指が滑った。
額、頬、顎、耳。
くすぐったいけど、触れられた所がじんわりと暖かくて、
それが嬉しくて、黙ってじっとしていた。
.
「…ちょっと痩せた？」
「、」
.
その言葉に、誤魔化すように笑ってみる。
誰とも会わないって、そういうことだ。
私のことをよく観察して、1日3食食べさせようと動く黒川さんもいなければ、
収録の合間、お弁当を食べ終わるまで見守るメンバーもいない。
彼の帰宅が遅いってことは、夕食だって食べてないってことになる。
.
「食べてないでしょ」
.
悪戯をとがめるみたいな、少し呆れたような声に目を閉じて
顔を逸らすように彼のお腹に埋める。
こういう時声が出たら、彼の気を逸らすようなことを言えるのに。
.
「こら、逃げない。A？」
.
こういう時、声が出たら。
キスをして、翔くんがいなくて寂しかったからって、
冗談みたいに言えるのに。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2125人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
