happIness*2-8 ページ8
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タクシーから降りて、少し歩く。
エントランスで身分証を見せたら、
ちらりと私の顔を見た警備員の人がお疲れ様です、と言って頭を下げた。
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よく行く会議室があるフロアをぽつぽつと歩く。
こんな昼間に事務所で事務仕事をしている人は少ないのか、
廊下を歩いてもほぼ無人だった。
自販機の隣に設置されている椅子に腰を下ろして息を吐く。
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もし仮にここで誰かと鉢合わせをしたとして、
気を使われるのは分かりきっているのに。
大丈夫ですかと憐れむような目で見られるのなんて
可愛そうだと思われているようで嫌だった。
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来るんじゃなかった、と
思いつきでここまで来てしまった自分を責めた。
少し休憩したら帰ろう、と傍にあった自販機で缶に入ったココアを買った。
ちびちびとそれを飲んでいたら、どこかの会議室の扉が開いた音がした。
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「お前さあ、そろそろ真面目に考えろよ…」
「ははは、」
「ずっとベタ付きで終わるつもりか？」
「だから僕はそれで良いって言ってるじゃないですか」
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なんとなく聞いちゃいけない話なような気がして、
ぎゅっと身体を小さくして息を潜める。
廊下に響く声は、どちらも男性のそれだった。
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「その工藤の復帰だって、いつになるか分かんないんだろ？」
「まあ、具体的な時期は」
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え、私の話？
そう思ったら、2人のうち1人の声はよく聞くそれな気がしてきた。
…黒川さんだ。話題の中心にいるのは、私の専属のマネージャーの彼らしかった。
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「工藤の担当は別のやつに回してさあ」
「…」
「チーフになって欲しいのよ、上としては」
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ああ、やっぱり来なければよかった。
大人しく家に帰っていれば、こんな話聞かなくて済んだのに。
ぎゅ、と掌の缶を両手で握りしめる。
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「現場マネージャーとしてはベテラン過ぎるんだよ、黒川は」
「歳だけ取っただけですよ」
「だとしても」
「、」
「そろそろ下に譲ってやらないと」
「…」
「な？」
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迷っているのだろうか。
私の傍にい続けることと、キャリアを取ることと。
どう考えたって、後者の方がいいに決まっている。
チーフになるってことは出世するってことだ。
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「…そうですね」
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小さい溜息とともに吐き出されたその言葉は
しんとした廊下にとてもよく響いた。
遠ざかる足音を聞きながら、私は震える息を吐いた。
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