happIness*2-40 ページ40
私を呼ぶ声が優しい。
涙の意味が分からないみたいな様子で、
何度も何度も私の名前が繰り返される。
.
もっと呼んで、もっと。
それがもう、聞けなくなってしまうのがつらい。
何でそんなに優しく呼ぶの、
わたしのこともう好きじゃないくせに。
どうして。
.
「なんでそんな泣くの……」
「、」
「ほらおいで」
.
涙を拭ってくれる手が優しい、
ひんやりと冷たい手が、なんども頬を往復する。
ぎゅうと抱き締められて、なんてひどい人なんだろうと思った、
好きじゃないなら、放っておいてくれたら良いのに。
.
あぁ、ちがう、メンバーだから。
私もみんなが風邪を引いたら心配するように、
翔くんも、きっと、メンバーだから、心配をしていて、
だから、こんなに優しくて。
.
背中をさする手が大好きだと思った、
だいすき、……わたしだけ。
はぁ、と彼がため息をつく。
それを聞いて、心が冷えた、頭のなかが真っ白になる。
.
ねえ、いやだ、ごめんなさい、泣き止むから、
きらいにならないで、まだ、ちょっとだけでも、
すきでいて。
.
息を大きく吸って、涙を止めようとする。
薬飲もうって言ってた、飲まなきゃ……
それに気づいた彼が錠剤を掌に出してくれる、
よく飲んでいる頭痛薬だった、頭も痛いしちょうど良い。
.
「どっか辛いところは？」
「……、」
.
そう聞かれて、わたしは動きを止めた。
心が辛いって、指を指したら、彼はなんて言うんだろう。
つらい、くるしい、たすけて
……そんなこと言えなくて、首を横に振った。
.
「明日病院行きなね」
「、」
.
いやだ、と意思表示をする。
病院は、いやだ。
あんな個人情報を晒すような場所に、
赤の他人に弱みを見せるような場所に、行きたくない。
.
「何でよ、熱高くてしんどいでしょ？行けばすぐ治るよ」
「、」
.
寝たら治る、だっていつも治る。
病院で薬をもらったら、きっと早く治ってしまう。
体調が悪い間は、「別れて」なんてきっと言われない、
心配してくれる、優しくしてくれる。
……最低だ、わたし。
.
「行かないの？」
「、」
「黒川さんに説得してって言われてるんだけどなぁ……」
.
ちょっと呆れたみたいな声を出した彼が、
私の肩をゆるゆると撫でる。
だいすきで、だいすきで仕方なくて、
安心する匂いを探して、身体を寄せる。
.
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