happIness*2-20 ページ20
「上手に誘えてえらいね、A」
「……」
.
幼子に言い聞かせるみたいに、穏やかな口調で言ってくるくせに、
とろりと溶けた目の奥は大人のそれで、目が回りそうになる。
翔くんは私の目元から頬を何度も指先で撫でて、
その度に「愛しい」みたいな顔をした。
.
素肌に近くなるほど、あの日のことを思い出して、
今日は離れていかないようにと、
ぎゅっと大きな背中に腕をまわした。
.
熱い吐息に混じった唇を受け入れて、
時折漏れる低い声に、ぶるりと身体が震える。
ぺたりと汗ではりついた彼の前髪に指で触れたら、
大きな目がわたしを捉えたあと、
同じように私の額に指が触れた。
.
「かわいい」
「、」
「Aが一番かわいい」
.
いちばん。
誰と比べてるんだろう。
彼の中に、比較の対象がいるんだろうか。
.
口を、はくはくと動かす。
一瞬、きょとりとした彼が、なに？と言いながら、
顔をぐっとこちらに近づけて、再度促す。
.
「、、」
「……」
.
数秒止まったあと、彼は「ははっ」と笑った。
まるで、それを信じて疑っていないみたいに。
まるで、それが当たり前だと言うように。
.
「うん、俺も」
「、」
「Aのこと、大好きだよ」
.
そして、まるでおまじないを掛けるみたいに、
私の喉元に唇を寄せて、そっと小さなキスをくれた。
音が出ないそこが、ごくりと震えたのが分かる。
.
ぼろぼろと涙を流しながら、指で示してもう一度とねだる。
彼に好きだと言われるだけで、ぶわりと幸せの魔法が
全身に掛かったみたいだった。
.
「もう一回？なにを？(笑)」
「、、」
「なんでそんなに泣いてんの」
.
好きだと言われて、うれしいから。
あなたがまだ私のことを好きだと思ってくれているのが、
すごく、しあわせだから。
.
「大好きだよ、愛してるから。ちゃんと」
「、」
「また泣くの(笑)」
.
ちょっと呆れたように笑う彼が、
涙を止めるみたいに、がぶりと食べるようなキスをねだる彼が、
私も大好きだと思った。
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