happIness*1-9 ページ9
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「おはようございまーす」
「おはようございます、お昼食べました？」
「……」
「食べてませんね、了解です」
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運転席にいる黒川さんが、
乗り込んだ私に挨拶をするや否や、そんな言葉を掛けてきて
分かりやすく言葉に詰まった私は、
図星であるその言葉に、えへ、と笑って返す。
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「朝ごはん食べたからお腹すいてないよ」
「そんなこと言ってたら一生食べないでしょう」
「…」
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お腹が空いていないのは本当だ。
食べなくても水さえ飲んでいれば案外大丈夫なんだけどなあ、と思う私とは裏腹に、
黒川さんはどんどん偵察能力を上げていく。
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「弁当出るので食べてくださいね」
「…はーい」
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スマホを取りだして、
今朝とった卵焼きの写真を添付したブログをポチポチと打つ。
上手に焼けたよ、というような文章を打ちながら
果たしてファンの子は喜ぶのだろうかとふと疑問に思ったけど、
まあいいかと、半ば自己満足のような感覚でブログを完成させていく。
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「あ、あれ選び終わりました？」
「ん？あ、うん。なんとなくだけど、絞ったよ」
「どれにします？オーディション受けるなら早めにスケジュール調整しないと」
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鞄の中に入れていた資料を取りだしてぱらぱらと捲った。
昨日の夜、印をつけたそこを開いて指でなぞる。
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「オファー来てるこの役も良いんだけどね」
「…」
「今までの経験活かせそうだし…」
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中世ヨーロッパ、
衣装も煌びやかになるからか、
舞台ではよく見かけるし、私も何度もドレスを着る役をしている。
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「でもこのオーディションも受けてみたいなあって」
「何がありましたっけ」
「この、ファンタジー要素が強いやつ。お姉ちゃん役の」
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昨日の夜、翔くんが選んだそれだ、
主役ではないけど、それも楽しそうだなあと思う。
魔法が使える役はちょっとワクワクする、
非現実的な世界観が、私は割と好きだった。
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「ああ、なるほど。それ第一希望にします？
多分ですけど、貰えると思いますよ、役」
「うん、とりあえず。これで」
「分かりました、スケジュール調整しておきますね」
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仕事がもらえる、仕事ができる。
前のそれが認められて、新しいものが私のもとにやって来る、
このサイクルが楽しくて、そして嬉しくて、
それだけで、心が穏やかになる気がして、暖かくなる。
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