happIness*1-10 ページ10
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一人での仕事を終えて、
通いなれたラジオ局に向かう。
駐車場の入り口に、真っ黒な車が停まっているのが見えて、
む、と眉を顰める。
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朝、翔くんに言われたことを思いだして、
小さく息をつく。
放送の時間も、場所も、そして誰が来るのかも分かっているんだから、
待ち伏せするにはこれ以上ないほど最適な場所だ。
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こんな所、張っていたって何も面白いことなんてないのにな、
と思いながら手に持っていた携帯を鞄の中に仕舞って
車を降りる準備をする。
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「停めるのでちょっと待ってください、一緒に降りましょう」
「はーい」
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普通なら入り口近くで降ろして貰って、
黒川さんが車を停めに行くけれど、
張り込んでいる人たちに気づいたんだろう。
私を乗せた車は、入口から遠い場所に停められた。
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自由なように見えて不自由な世界は、
いつも夢と現実が隣り合わせで光っている。
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誰かが笑えば誰かが泣いていて、
誰かの不幸は誰かの幸せだ。
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「お、Aおはよ」
「おはよー」
「なんか珍しい服着てる」
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先にスタジオにいた潤くんが私の恰好を見てそう言う。
自分の着ている服を見下ろして、
今日はベージュのニットを着ていることに気づいた。
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「…あ、これ新しいやつ」
「へえ、新作?」
「いや…旧作?」
「DVDじゃないんだから旧作って言わないだろ(笑)」
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去年舞台をやったときに、共演した人からもらったものだった。
着る機会がなくて、
1年新品のまま眠っていたのだけれど、
ワンシーズンを経てようやく着ることができた。
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「潤くんは髪の毛切ったね」
「ん?ああ、そう。さっきね、ここに来る前に」
「寒そう」
「首元ざっくりあいてるニット着てるお前には言われたくないわ」
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他愛もない会話ができるこの関係が好きだ、
意味のない話をずっとできる人が、
私は大切でたまらない。
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「あ、アルバムの話聞いた?」
「…次のってこと?いや、まだ聞いてない」
「ソロは完全にお任せするんで、考えておいてください」
「えーそうなの?何しようかなあ」
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意味のある話をする時間も、
もちろん好きで、大切だ。
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自由なように見えて不自由なこの世界は、
私の「好き」と「大切」が詰まっている。
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