いなせな相棒 弐【土方十四郎】

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「その面、男が上がったな」

　桂のひどい有様を見て、Aは鼻で笑った。すると、彼は珍しく皮肉な口調で応える。

「上手くやれば、そう難いことでもあるまい」
「ほう、ぜひともご教授願いたいね」

　言葉に反し、二人の表情は至極穏やかであった。各々の風の噂は耳にせど、顔を合わせることはほとんどない。近況を話す代わりに、互いの様子をじいっと確かめた。

「息災のようで何より」
「ああ、そちらも」

　Aはまばたきを一つしたあと、咳払いのついでに口角をほんの少し上げて短く言った。
　桂も同じように早口で返す。

　何せ敵対する身だ。Aは真選組副長の片割れ。現在の桂は穏健派であるとはいえ、それでも手配書の出回る攘夷志士。そんな人物と大っぴらに仲良くするのは得策ではない。
　そのあたりの事情は桂も似たようなものらしく、再会の歓びと懐かしさの表現は、微笑のみに押しとどめた。

「お使いを断った」

　桂は表情を崩さぬまま、落ち着き払った態度で囁いた。

「何を頼まれたんだい」
「坂田銀時の首だ」

　Aは深く納得した。彼が相手の要求を突っ跳ね、頑として首を縦に振らぬ様子が目に浮かぶ。それなりに手酷くつけられた顔の傷は、彼なりの友情の証ということだった。

「さてさて、お前は誰の首取りを求められるか」
「大体の予想はつくだろう」


　そのとき、鉄格子の向こうにある扉が重々しく開いた。
　入ってきたのは、黒い覆面を被った男である。腰に刀を差しているが、それは反っておらず真っ直ぐだった。長さも妙に短い。

「こんにちは。お二人とも」

　男は慇懃無礼に頭を下げて見せた。桂とAは言葉を返しはしなかったものの、そのまま話を続ける。

「桂さん、そろそろ決められましたかな」
「決めるも何もない。俺は貴様の要求に従うつもりはない」
「ほう、それでは囚われたままでも良いと」
「構わん。友を裏切ることは、俺の武士道に反する」

　桂がきっぱりと言い放つと、覆面から唯一窺える男の目がいやらしく細められた。邪悪な感情がありありと浮かんでいる。桂もそれに気がついたらしく、柳眉をぐっと寄せた。

「では、榎本さんに別のお願いをしましょう」

　男はついにAの目を見つめた。逸らしてたまるかという負けん気で睨み返せば、男の瞳はますます悪意に染まる。
　もはや享楽的な色すら見せるその目に、Aはらしくもなく唇を引き結んだ。

「近藤勲を殺してください」

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