雪降るドイツの探偵卿 (ページ47)

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ピースサインページ47

どうですか、と、わたしは“アニカさん”を見上げた。
　するとその優しげな目は一気にキリッと鋭く＿＿＿ジョーカーさんの目に、なる。

「……すまない。そこまで気が回らなかった」

　女性のものではない低い声で、本当にすまなそうに、わたしが肩を痛めたことについて謝罪してくれる。
　ジョーカーさんはいい人だ。数日間一緒に過ごして感じたことを、再認識する。

「いえ、本当に少しだけですし。それに、カメラが倒れてくるのは計算通りだったといいますか。危険な目に遭ったのはわざとなんです。貴方がクイーンさんかジョーカーさんか、はたまた関係のない一般人か、確かめるために」

　そう言って、わたしはにこりと笑ってピースサインをする。

「ジョーカーさんのおかげで、作戦成功です！」

　普段はあまりしない、そんなおちゃらけたわたしの様子にジョーカーさんは目を丸くする。
　そんなキャラだったのか！と驚く心の声が聞こえてきそうだった。
　わたしだって、気分のいい時は少しくらい弾ける。本当に信頼のおけるごくごく限られた人の前でだけ、だけど。

　＿＿＿ふと、ジョーカーさんは何かしなくちゃいけないことがあるのでは、という考えが、なんとなく浮かんだ。

　ジョーカーさんがこの美術館に来たのは勿論、怪盗クイーンの犯行の下準備のためだろう。おそらく、準備はまだ済んでいない。うずくまったわたしを、助けた所為で。
　その考えにひらめくと、わたしの弾んだ心は一気にしぼんでしまった。

「……調子に乗ってごめんなさい。わたし、ジョーカーさんの邪魔をしてしまいました」

　急な態度の豹変に、ジョーカーさんは一瞬戸惑ったようだけど、すぐに何のことか察してくれた。

「フェール＿＿＿君に声をかけたのは、僕自身の意志だ。僕が勝手にしたことだから、気にする必要はないよ」

　ジョーカーさんの優しい言葉。その気遣いが、本当にありがたい。
　しかし、迷惑をかけてしまった、否、現在進行形でかけてしまっていることに変わりはない。

「でも、大丈夫ですか？わたしと“アニカさん”が一緒に居るところ、多分花菱さんやヴォルフさんに報告されてます。二人とも、わたしのことを少し訝しんでいるようでしたから」

　たとえ探偵卿という仲間同士でも、推理の盲点に入ることは決してない。わたしがクイーンさんと通じているということまでは、知られていないと思うけれど＿＿＿用心に越したことはないだろう。