雪降るドイツの探偵卿 (ページ45)

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スローモーションページ45

辺りがスローモーションで動く。

　ぐんっと迫ってくる、カメラの黒いボディ。その向こうには灰色の雲が薄く浮かぶ。隙間からは澄んだ青空がのぞいている。風が吹く。２、３枚の葉が空中で舞う。鳥が慌てたように風上へ飛ぶ。視界がグッと、横へ、ず‥れ…る……？

　グヮッシャアァンッ！！！

　派手な音を立てて、カメラが倒れた。無残に飛び散ったパーツが痛々しい。

「…………」
「…………」
「…………」

　広場にいる誰もが、それをじっと見つめている。
　一瞬の静寂ののち、辺りには騒音が広がった。

「うわああああっ！カメラがぁぁぁ！」
「どうすんだよ！ディレクターに怒られる！」
「せっかくの初ロケなのに！もうおしまいだあああ！」

　悲鳴にも似た、カメラマンたちの叫び声。
　すぐにディレクターらしき人の叱責が飛ぶ。それに促され、カメラマンのうち、まだ年若い一人がわたしたちのもとへ駆け寄ってきた。

「申し訳ないです！お怪我はありませんでしたか！？」
「いえ......。大丈夫です、直撃はしなかったので」

　わたしはそれに、フードを再度深くかぶり直しながら答えた。
　そう、直撃はしなかったのだ。アニカさんが、目にも留まらぬ速さで手を引き、カメラの軌道からわたしを連れ出してくれたおかげで。

「ありがとうございます、アニカさん」

　感謝を込めてそういうと、アニカさんは目元を緩めて微笑んだ。

「いいのよ。無事でよかった」

　カシャッ

　その表情を、わたしはスマホですばやく写真に収めた。

「＿＿＿！？なにを……？」

　戸惑った様子のアニカさん。それも当然か。カメラが使用禁止なこの美術館に来て、写真を撮られるなんて、“彼”にとっては予想外の出来事なのだから。

「なにをしたのか、ですか？少しばかり証拠を頂いただけですよ。アニカさん。いえ＿＿＿」

　わたしは少し声を低くし、“彼”を見上げて、言う。

「ジョーカーさん。ここまで証拠がそろっては、分からないわけありません」