雪降るドイツの探偵卿 (ページ29)

今日:7 hit、昨日:1 hit、合計:11,651 hit

スチウェーク美術館にて１ページ29

美術館の中は想像以上に美しい所だった。
　壁は白一色で、同じ色の円柱型の柱がずらりと並び、壁との間に道を作っている。長方形と半円形が組合わせったような形の窓は、採光が目的のフィックス窓のようだ。天井付近の壁や柱には、アンティークな色合いのバラの花の飾りが、豪華絢爛に咲いている。そして天井には天使たちが空の上で遊んでいるところを描いたフレスコ画が全面にあった。ペールブラウンの床は、その天井画が映りこむほどピカピカに磨き上げられている。
　その美しさに、わたしは思わずため息を吐いた。
　突然、その美しい館内に相応しくない声が響く。

「無礼者め！わしはあれを、正当な額の金を払って手に入れたんだ！お前らにつべこべ言われる筋合いはない！」

　その声をした方を見ると、少ない茶髪にちょび髭で立派なスーツを着込んだおじさん＿＿エグモンド氏だ＿＿が真っ赤な顔をして怒っている。そして、その真ん前にいる２人組は…。

「あ、フェールちゃん！どうしたの、こんなところで」

　茶髪にピアス、といういまどきの若者らしい風貌の花菱仙太郎さんが大きな声で話かけてきた。……花菱さんは空気が読めないのだろうか？今の場面で無視したように喋ったら、もっと怒られるのに。
　わたしと同じことをその隣にいるヴォルフさんも思っているようで、わたしの方を見た後、いつもと同じしかめっ面で花菱さんに何か小さく言っている。
　案の定、エグモンド氏は再び怒鳴り始めた。口では美術館で大声を出したことについて言っているが、あれはどう見ても自分の発言を無視されたことに怒っている。それは花菱さんの声より大きく、聞いていて不快になるような怒り方だった。
　そんな中、花菱さんがなにか言うと、驚いたことにエグモンド氏は口を閉ざした。だが、まだ顔は真っ赤なままだ。そんなエグモンド氏を置いて、花菱さんがわたしの方に来た。

「お母さんのところに行っているって聞いてたけど」
「はい、そのつもりだったんですけど当日に熱が出てしまって。行くのを取りやめにしたんです。テレビを見ていたら、今夜の怪盗クイーンの犯行のことを知りました。それでスチウェーク博物館が今どんな感じなのかを見に」

　想定内の質問だ。わたしはさらりと答える。