雪降るドイツの探偵卿 (ページ15)

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１日後の夜～２日後の朝ページ15

次の日の夜、わたしは部屋で図書室から借りたフランス語の本を読んでいた。
　半分ほど読み進めた後、カタン、とかすかに振動がページをめくる手に伝わってきた。それは、トルバドゥールが動くときにするものと同じようなものだった。

「ＲＤさん、どこへ向かうんですか？」

　夜なので、自然と小さな声が出た。それでもＲＤさんのマイクがそれを取りこぼすはずはない。ないはずなのに、返事は来ない。

「ＲＤさん？」

　少し大きな声で言ってみた。壁に取り付けられたスピーカーからは何の音もしない。静かすぎる船内に、耳鳴りが鳴り始める。
　そっと椅子から腰をあげて、部屋の扉を開けた。ＲＤさんに何かが起きたということはたやすく想像できる。だとしたら、何か行動を起こさないと……。

　いったんはそう思ったけど、次にある考えが浮かんだ。今までのことから99.9999%(シックスナイン)の確率でそうだと思えたから、やっぱり部屋で眠るのが一番だと思い直した。

○○○

　一晩経ち、たっぷりと眠ることができたわたしは、いつも通りに食堂へ行き朝食を食べた。その後、無言がちなＲＤさんに声をかける。

「昨夜は災難でしたね。クイーンさんにいたずらでもされたんでしょう？」
『聞いてくれますか、フェールさん！クイーンったらひどいんですよ。わたしは何もしていないのに、いきなり悪性のウイルスをまき散らしてきて……。ウイルス退治に気を取られてたら、システムをほとんど奪われてしまうし。
　なんとか取り返しましたけど、今もまだ、システムの２０％ほどが奪われたままなので、クイーンの自室周辺のカメラが機能できないんです。
　その時クイーンはどこかへ行ってきたようで、まだ自室で寝ているようですが……』

　ＲＤさんの訴えに耳を傾けていると、少し気になったことがあったのでそれを尋ねる。

「クイーンさんがどこへ行ってきたのか、わかりますか？」
『それはわかりませんが、ハッチの空いた時間は記録されていました。そこから考えるに、東アジアの方ではないかと思われます』
「東アジア…。中国とか、日本の方ですね。教えてくれてありがとうございます」

　わたしはお礼を言い、食堂から出るとリビングへ向かった。
　いくつかあるソファのうち、ちょうど真ん中にあるソファの前に新聞紙が無造作に置かれていた。