【文豪ストレイドッグス】貴方とだけは恋に落ちない【短編集】

貴方の理想にはなれない【国木田独歩】 ページ2

この間の仕事終わり、

同僚が、明らかに彼に淡い片想いをしているのであろう、幼い少女に対して、


「お前は配偶者計画の五十八項目中三十一項を満たさんので却下だ。」


なんて言っているのを聞いてしまった。



〜･〜･〜



「ねえ、太宰くん。

国木田くんの配偶者計画って、どんなこと書いてあるの？」

「気になりますか？Aさん」

「おい太宰、話すなよ…！


というか…Aさんも、何故知ってるんですか。」


焦ったように太宰くんに釘刺してから(もっとも全く刺さってはいなそうだが)

困ったようにそう聞いてきたので、

先日の一連の会話を聞いていたのだと伝えた。


それに国木田くんは「ああ…。」と呟いてがっくりと肩を落としている。


「まあでも、

結局のところ彼の理想の女性は一人だけなんですよ。」

「へえ…。」

「おい太宰っ！よせ！」


国木田くんはそう言って太宰くんの首を絞めてる。

うん、いつもの光景だ。




…国木田くんの理想か。

ただでさえ五十何項目かの条件を掲げている上、

誰よりも真っ直ぐな彼の理想だ。


「…きっと、素敵な人なんだろうね。」


そう微笑むと、国木田くんも少し顔を赤くしてから「はい。」と穏やかに笑った。






ｰｰｰｰｰｰｰｰｰ…


そんな話をした日の夕方。

仕事が終わりそろそろ帰ろうか、というところで、
国木田くんに声をかけられた。


「一緒に帰りませんか」と。


断る理由もなく、私はうん、と頷いた。





「ｰｰｰ…そういえば、掘り返すようだけど、国木田の理想の女性って誰なの？

私の知っている人？」


人通りの少なく静かに道を、

肩を並べて歩きながらそう聞いてみる。


国木田は突然のことに取り乱したように咳を繰り返してから、「急になんです。」と返した。


「なんか気になっちゃって。

理想が高い国木田くんの想い人。」


「…そうですね、知っていると思いますよ。」


国木田くんは少し間を置いてから諦めたように、呟くようにそう言う。


返答してくれるとは思わず、驚きながら誰かと考えてみる。


やっぱり晶子先生かな。

鏡花ちゃんとかは流石に無理がある…というか、少し犯罪っぽい気も…。


そんな風に考えていたのを急停止させたのは国木田の一言だった。





「貴女ですよ。

俺は貴女が好きです。」


「え…？」





ｰｰｰ今まで意識したことなんて、なかったのに。





「…私は、」


理想にはなれないけれど、





ｰｰｰそれでも頬が熱くなる。

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