碧棺左馬刻が初めての恋をした話

プリムラ・マラコイデス（７） ページ9

　
「えっと……ヤクザになれってことです…？」


「ンでそうなんだよ」



私にはそうとしか聞こえなかったです。




「俺の家っつってんだ」


「もっと意味分からないです」


「あ？ヨコハマで家賃六万とか安すぎんだろボロアパートじゃねぇのか」


「ごく普通のアパートですよ。相場通りです」


「なら俺様がその相場通りのレベルのアパートより良いとこに住ませてやる」





どうだ、と言わんばかりに私の方を見る碧棺さん。


すると話が一段落するのを待っていたかのように頼んだ料理が運ばれてきた。



「ンだ、左馬刻。派手に口説いてんな」


「るせェ」



先程まで左馬刻サン、と碧棺さんのことを呼んでいた店主さんがすっかり呼び捨てだ。普段はきっとこう呼んでいるんだろう。



料理を運んでくれた店主さんに会釈をし、目の前に並んだ料理を眺める。


天津飯、小籠包、それに具沢山の中華風スープ。



どれも凄く美味しそうだ。



「ン、食えや」


碧棺さんはそう言ってレンゲを持ち、炒飯(大盛り)の付け合わせのスープを飲む。



「いただきます」


私も同じようにスープに口を付ける。


「美味しい…！」


思わずパッと顔を上げてそう言った私に碧棺さんは少し満足気に頷きつつ、「まだスープしか食ってねぇだろが」と言った。



深めのスプーンを手に取り、天津飯も頂く。

卵がトロトロで、甘酢の効いたあんがとても美味しい。



「こんなに美味しいご飯食べたの久しぶりです！というか、こんな美味しい天津飯初めて食べたかも」


「お前普段何食ってんだよ」


ふ、とやや吹き出すようにして笑った碧棺さんに苦笑して答える。


「お恥ずかしい話、昨日も一昨日も、もやしと素麺で食べ繋いだくらいなので…」


あはは、と頬を掻く私に碧棺さんは先程の笑みは何処へやら。一瞬ぽかんとした顔をすると、次は眉間に皺を寄せた。


　
「…実家は？裕福じゃねェのか」


「うち、片親なんですよ。父親が居なくなっちゃったんです。

私、元々は地元の国立大学に進学しようと思ってたんです。でも一次試験で失敗しちゃって出願出来なくなっちゃって。

今は特待生対象の奨学金を受けて大学に通ってます。四年間の授業料が三分の一になるんです。

下宿先を決める時も、私はもっと安い所にしようって言ったんですけど母がAが心配だからって。」


長々と話しちゃいましたけどとにかく、金銭面に余裕はないですと伝えると碧棺さんはこう言った。


　

プリムラ・マラコイデス（８）→←プリムラ・マラコイデス（６）

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す