碧棺左馬刻が初めての恋をした話

マリーゴールド（４） ページ23

　

私を視界に捉えた途端、燃えるような赤い瞳をバツが悪そうに逸らした彼。






「ちょっと左馬刻様ぁ、誰なのこの子」






左馬刻さんの隣にいる女の人はハイヒールを履いても尚、頭一個分背の高い左馬刻さんを見上げる。






「A、これは」



「はじめまして。碧棺左馬刻の妹です」





ペコリと頭を下げた私に女性も左馬刻さんも呆気に取られている様子だ。



ハッと我に返った女性が訝しげに私に詰め寄る。






「左馬刻様の妹？全然似てないじゃない」



「あはは…よく言われます。お恥ずかしながら。兄の恋人さんですか？すみません、兄から何も聞かされていなかったのでご挨拶も出来ず。今後とも兄をよろしくお願いします」




礼儀正しく振る舞うと、女性は満更でもなさそうな表情をした。






「…なんのマネだ」



「…夕ご飯は要らないんでしたよね。どうぞごゆっくり」





眉間に皺を寄せた左馬刻さんを流すと、私は踵を返す。





背後から「オイ！待てや！…待てっつってんだろ！A！」と捲し立てられるけど知ったことではない。





やっぱり、仕事なんて嘘だったじゃないか。




嘘なんて吐かないでも、素直に女の人のところに言ってくれたら良かったのに。


そう言われたら私は、




……私は、素直に送り出せていただろうか。




ああ、醜いな。


付き合ってもいない、告白すらしていない、そもそも想いを自覚したのもつい最近。




出会ったのだって、一ヶ月と少し前くらいなのに。




一丁前に独占欲なんて、私はなんて強欲なんだろう。




左馬刻さんはただの同居人だし、きっと彼自身、私のことをそう思っているはず。









気がつくと私は、いつか左馬刻さんに連れてきてもらったあの公園に居た。


ぼんやり歩きながらそこに辿り着いた頃には、辺りはもう暗くなっていた。




きらきらとした夜景は前に見た時と何も変わらないのに、なんで今はこんなに霞んで見えるんだろう。






ベンチに座ってぼーっと景色を眺めていると、背後から丁寧な口調で男の人に話しかけられた。


細身のスーツに、髪型は七三。

端正な顔立ちにインテリさを加える眼鏡に、赤い手袋。





「少しお時間、よろしいですか？怪しい者ではありません。…ヨコハマ警察署 組織犯罪対策部巡査部長の、入間銃兎と申します」



　

　

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