碧棺左馬刻が初めての恋をした話

マネッチア（１） ページ11

　
その後、碧棺さんに家まで送ってもらって帰宅した私は母に早速連絡をした。


　
年上の彼氏が出来たこと。

彼氏が私の体力面や金銭面のことを心配して同棲を提案してくれたこと。

私がその話に乗りたいと思っていること。


もちろん、年上の彼氏なんて出来ていないし、これは同棲ではなく同居だ。


母は心配していたけど「私の体力面で」という言葉が出た途端に「そうね」と頷いた。




「Aが週六日バイトに出てるって聞いて、お母さん心配だったのよ。これでAがゆっくり出来るようになるなら、お母さんも賛成だわ」


と、こんな感じで割と快諾してもらえた。






そして、話が纏まった三日後。

今日はバイトがお休みの日だ。



スーツケースとボストンバッグに必要な荷物を詰め込んだ私を、碧棺さんはあの白のレクサスで迎えに来てくれた。





「荷物それで全部かよ」


「はい。良い機会だったので服とか色々断捨離しました」




ふぅん、と特に興味なさげに相槌を打った碧棺さんはエンジンを切ると運転席から降りて私の側にやって来た。




「それ貸せ。お前は先乗ってろ」




私からスーツケースとボストンバッグを半ば掻っ攫うような形で持った碧棺さんは荷物を持って車の後方へと向かった。




私は碧棺さんの言葉に甘えて、助手席に乗り込む。



シートベルトを締め終えると碧棺さんも車内に戻ってきた。




トランクに私の荷物を積み込んでくれたのだろう。





「すみません、ありがとうございます」


「礼言われる程のことじゃねぇよ」



　


ぶっきらぼうにそう言うと、碧棺さんは車を出発させた。


　

「碧棺さんのお家ってどんな感じなんですか？」




相変わらず無音の車内の沈黙を早々に断ち切るため、私は訊ねた。





「あ？別に、普通のタワマン」


「タワマンなのに普通とは」


「俺様が家賃六万ぽっちのアパートに住んでるとでも思ったのか」


「それは思ったなかったですけど。車、レクサスですし」


「お前車分かンのか」


「詳しくはないですけど、少しは。…この車、安い戸建て買えちゃうくらいの値段ですよね？」


「安い戸建てならな」



特に得意になるわけでもなくサラリと答えた碧棺さんの様子からして、彼にとってはこの車も大した買い物ではなかったのだろう。



これ、もしかしてすごいお家が待ってるんじゃ……という私の心配はこのあと約三十分後に現実になった。


　


　

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