12. 告白 ページ12
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Aとネストレが二人で残された店内。外の混乱とは裏腹に、時間は静かにゆっくりと進んでいた。時計が針を刻む音が静寂を支配している。たった数分が数十分に感じられる空間。
ユリウスが去ってから十分と経っていないであろう――しかし、それよりももっと長く感じられた――頃、ネストレが沈黙を破った。
「王都は混乱してる。もし暗殺者が隣国民だったら、戦争になる可能性もある。僕の故郷に逃げよう」
「――え?」
「僕の家は田舎だけど地主だから裕福で、君が生活に困ることはない。王都に来たのは、視野を広げるための社会勉強。
僕は君のように、優しく賢く、そして美しい人を見たことがない。是非、僕と一緒に来てほしい。ここにいるよりは幸せに暮らせるはずだから」
Aは驚きのあまり目を見開いて固まっていた。彼女の思考は彼の言葉に追いついていない。それに、これはまるで愛の告白だ。
「あ、あの、ありがとう、事件で混乱していた私を元気づけようとしてくれたのね。もう大丈夫だから!」
まさか、と思いながら勘違いで恥をかかないようにとまくし立てるようにとぼけて見せるA。しかし、ネストレの表情は先程からずっと真剣であった。
「違うよ。僕は本気で言ってる。Aのことが好きなんだ。僕は君を幸せにしたい。そのためなら僕は故郷であらゆる努力をする。こんな状態の王都より、僕の故郷にいる方が幸せになれると思う」
ネストレはAの目を真っ直ぐ見つめて愛を告げた。彼女の幸せを願っている、誠実な告白。地主の息子だから、受け入れれば余裕のある暮らしが約束されることになる。
しかし、それはAの心を動かすことはできなかった。ヴィオルドへの想いがある彼女は、王都に残ることを心に決めている。ネストレのように誠実な紳士の申し出を断ることは心苦しいが、彼女にはそれしか道がなかった。
「……ありがとう、ネストレ。貴方の好意はすごく嬉しい。でもごめんなさい、私は貴方と一緒に行くことはできない。――大切な人が、いるから」
人の告白を断ることが、こんなにも切なく悲しいことだったなんて。ネストレが本気でAのことを考えてくれていたからこそ、彼女も苦しく感じてしまうのだろう。当のネストレは、そんなAに優しく微笑んだ。
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花宮 夢@低浮上(プロフ) - La merさん» お返事が遅くなってごめんなさい。読んで通知が消えた後、お恥ずかしながら忘れてしまいました。寒いので体調にはお気をつけくださいね。忙しい中、閲覧・コメントありがとうございます。 (2018年1月14日 1時) (レス) id: d55711392b (このIDを非表示/違反報告)
La mer(プロフ) - 夢さん、お久し振りです(*´ω`*) 久々に読ませて頂きました。今後の展開が予想できなくて気になっています……謎の言葉やそれを言った人物の正体も気になるし…… 張り詰めた毎日の良い息抜きになります、ありがとうございます(^^) 良いお年をお迎えください◎ (2017年12月23日 21時) (レス) id: 7b9f054eff (このIDを非表示/違反報告)
花宮 夢@帰国したけど低浮上(プロフ) - MIYA@冬氷雪さん» 遅くなってしまい申し訳ありません。画像はふわりさんの辞典にURLのやり方が載っていました。雑誌の件ですが、今更でよろしければこちらとしては大歓迎です。もちろんタイミングもあるので、できなくても大丈夫ですよ。 (2017年12月23日 18時) (レス) id: 75dac65544 (このIDを非表示/違反報告)
MIYA@冬氷雪 - 花宮 夢@帰国したけど低浮上さん» 今度、レディデイという雑誌で花宮夢さんの特集を作らせてください。お返事待ってます。 (2017年11月25日 13時) (レス) id: f60eebe690 (このIDを非表示/違反報告)
MIYA@冬氷雪 - 花宮 夢@帰国したけど低浮上さん» お久しぶりに帰ってきてくれたんですね?本当にありがとうございます。(意味不!)新しく、CSSを研究中です。良ければ、どんな風に画像のCSSを投稿できるのか教えて欲しいです。どんなにゆっくりでも、いいので完結まで頑張ってください。 (2017年11月25日 13時) (レス) id: f60eebe690 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:桜庭 美羽 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/SakurabaMiu/
作成日時:2017年6月18日 17時