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「やはりか」
納得したように呟いて、ウサギくん(仮)は和泉から身を離した。
「そういえば、何か言いかけてなかったかい?」
「いいえ、なにも……」
「なら良いんだが」
まさか『彼氏が居るのでごめんなさい』と、一方的にフろうとしていましたなんて、恥ずかしくて言えない。
「どうして、私が迷子だってわかったんですか?」
その話題から離れたくて、和泉は適当な質問をしてみる。
「ここは穴場みたいなものでね、滅多に人が通らないんだ」
「そうなんですか」
「だから君が通りかかったのには驚いたよ」
道理で、待っていても誰も通らないわけだ。
今度は和泉が納得する番だった。
「しばらくして、君が戻ってきた時もびっくりしたな」
その言葉に、和泉はぐっと詰まる。
ベンチで休憩するまで、この辺をうろうろしていたことは確かだった。
しかし、その間、広場には誰もいなかったはずだ。
「ひょっとして、どこかから見てたんですか」
「もちろん」
寮の部屋からだけど、とウサギくん(仮)は笑う。
「何度も広場に戻ってくるから、おかしいと思って出てきたんだが……案の定だったみたいだな」
穴があったら入りたいと、ここまで思ったのは、ちょっと生まれて初めてかもしれない。
が、鞄には穴掘りに適した物が入っていないので、和泉はやむなく断念した。
この場を逃げ出すことも考えたが、闇雲に走ったところで広場に戻ってくることはわかっていたので、そちらも諦めた。
「それで、君はどこに行きたいんだい?」
「時計台までです。待ち合わせしてるんですけど……」
自分でも、声が小さくなるのが分かった。
単独行動はやめよう、と心に誓う。
この様子では、もう間に合わないだろう。
「そうか、引き留めてすまなかった」
「いいんです。どっちにしろ間に合わなかっただろうし」
しょぼくれた様子の和泉に待ち合わせの時間を聞くと、彼は胸元の懐中時計を外し、文字盤を確認した。
「いや、まだ間に合うさ」
静かな自信に満ちた声に、和泉は驚いて顔を上げる。
「君の時間を潰したお詫び、とでも思ってくれないか」
当のウサギくん(仮)は、悪だくみを閃いた猫のような、そんな笑顔をしていた。
「ひとつ、とっておきの近道がある」
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心音(プロフ) - 感動の一言です。面白さもあるなかでの、作品の静かな雰囲気が本当に素晴らしいと感じました!更新、楽しみにしてます! (2015年6月28日 9時) (レス) id: da51ec7942 (このIDを非表示/違反報告)
www - でもが2回も続いてしまいました(汗すみません… (2014年12月26日 15時) (レス) id: 923386029d (このIDを非表示/違反報告)
www - ひぢのさん» そうですよね!あ、でも作品ほとんど消えてしまってて…。せめて残して欲しかったって言うのは私の我儘ですかね…。でも、その人がいるサイト分かったので行きます。ひぢのさんの小説もちゃんと読みます(ニコッ頑張って下さい!ランキングとかに乗るといいですね (2014年12月26日 15時) (レス) id: 923386029d (このIDを非表示/違反報告)
ひぢの(プロフ) - wwwさん» 作品を書くのがお好きな方でしたし、ガッツもありましたから、きっと裏切り云々の規約のない新天地で返り咲いてくれることでしょう。占ツク時代の作品のタイトルなどを頼りに、探してみることをお勧めいたします。 (2014年12月26日 15時) (レス) id: e3c5154d5f (このIDを非表示/違反報告)
www - 裏、切りの小説が少しでも減って皆で楽しめるようになるといいですね! (2014年12月26日 15時) (レス) id: 923386029d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひぢの | 作成日時:2014年12月25日 5時