Case.1 ページ5
．
『やっ、』
「やなの？」
『いきなり、そんな』
「ほんと？」
『だって…』
「うそだね、だっておれ、そんなに強く引っ張ってきてないもん」
両手首をつかまれて、柔らかい枕に押し付けられる。
彼から目が離せなくなって、ただただ視線が絡み合って。
あぁ、キレイな茶色い瞳だなぁ、と思う。
「ついてきたのは、Aちゃんの、意志」
今日、何度めかの、その甘い声を最大限に利用して囁かれる言葉は、また私の頭のなかにじわりと響いて、身体の力が奪われる。
「いい子だね」
まるで、エサを捕まえた狼のように。
ちろりと舌で自分の唇をなめた彼は、完全に目がオトコになっていた。
「大丈夫、痛いことしないから。きもちいいこと、しよ」
私は、頷くことしかできなかった。
彼は、ベッドのサイドテーブルに置いていたシャンパンのボトルを持つと「もったいない」と呟いて、そのまま口をつけてシャンパンを含んだ。唇が重なって、私がゆるく唇を開くと、舌と一緒に少しぬるくなったシャンパンが流れ込んできた。
こんな、こんなの、知らない。
それからボトルが空になるまで、幾度か繰り返されるその行為で、私は名前も知らない高いシャンパンの味と一緒に、彼の味を覚えさせられた。
あのシャンパンのアルコールが、きっと、つま先までまわったころ。
気づけば私は後ろから抱きかかえられていて、優しく、彼の唇が首筋を伝った。頬に可愛い音を立てて口付けて。次は、耳朶。柔らかく食む。その次は、耳の裏。ダイレクトに音が鳴って、そしてくるりと身体の向きを変えられた。
正面で向き合う。唇は、また私の首筋を伝い、顎、頬、そして鼻先。目尻、瞼、眉間に、優しくキスを繰り返す。だけど、どうしてもそこにはくれなくて。いじらしく、また私の首筋に顔を埋める。
「ふっ、」
『ん、ん、にの、んん…』
「それも、やめよっか」
ぴたりと、耳にくっつけられた唇は、甘く。
「和って呼んで、そしたら、ご褒美あげる」
ためらいなんか何もなかった。
『かず、』
「ん、」
私の呼ぶ声に答えるように、やっと、彼の唇が重なった。
もうシャンパンは飲んでないのに、さっき流し込まれた甘いシャンパンをまた口移しされてるような感覚になる。もしかしたら甘いのは、彼自身なのかもしれない。
頭の中は空っぽで、パパのことなんか、忘れてしまっていた。
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かなで(プロフ) - なり。さん» ありがとうございます！悪い言い方だと「尻に敷かれる」なんて言いますが（笑）先生をコントロールしたい婚約者、そして雅紀くんの行方も注目していただけると嬉しいです！ (2020年8月11日 22時) (
レス) id: fab795035e (このIDを非表示/違反報告)
なり。(プロフ) - わぁ!!更新凄く嬉しいです！ コントロール、パワーワードですね。愛する人を、他人を操作、支配できるのか、出来ないのか。次回を楽しみにしてます！ (2020年8月3日 11時) (レス) id: a09df3f8ec (このIDを非表示/違反報告)
かなで(プロフ) - 優羽さん» そう言っていただけると書き手冥利に尽きます。これからも楽しんでいただけるものを作れたらと思います。コメントありがとうございました(^^) (2018年12月12日 14時) (レス) id: 44386e0598 (このIDを非表示/違反報告)
優羽(プロフ) - どのお話も楽しく読ませていただいてます。中でもcase3はリピ読みしてまして、冒頭はクスッと笑えるお話だったのに段々切なくなって涙しました。バッドエンドなのに清々しい。素敵なお話を読ませていただき感謝してます。 (2018年12月1日 2時) (レス) id: 1bf95b0dcc (このIDを非表示/違反報告)
奏(プロフ) - なり。さん» 想像でしかないのですが私の中では、向こう側へ渡った人たちは悲しくてもきっと残された人の幸せを願ってくれると思うんです。願うことしかできなくなってしまうというか…。こちらこそいつもありがとうございます！なり。さんにまた喜んでいただけるよう頑張ります！ (2018年11月27日 14時) (レス) id: 44386e0598 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：かなで
| 作成日時：2018年2月9日 12時
