帰らない ページ32
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『それで、どのくらい滞在するつもりなのかね?』
テーブルに置かれたカップにはゴールデンイエローのダージリンが注がれ、爽やかな香りを漂わせている。
それが、カップよりも手前にあるミラベルのタルトの上品な甘さを際立たせている。
『俺は1週間ちょっと』
『ファッションショーに招待されてたり、ほとんどが仕事だけど、観光もしてみたいんだよねぇ』
斎宮宗の言葉に瀬名泉はそう返した。
一方、月永レオは黙々とタルトを頬張っている。今にも頬がはち切れそうだ。
端の方で小さくなり、微動だにしないAは家に着くまでに様々な情報が脳内を占拠し、脳がショートしていた。
帰りのバスの中で、互いに挨拶を済ませ、そこで彼らがアイドルであり、モデルで、作曲家であることを知った。
そして、この家に空間に、日本のアイドルが3人もいて、一般人の自分が彼らと同じ空間に居ることに今更焦り始めたのだ。
彼女は多分、いやきっと妹に後ろから刺されるという恐怖を想像せずには居られなかっただろう。
『おれは決めてないな!』
音が鳴る勢いでとタルトを飲み込み、食べかすを口に付けたまま、月永はそう宣言した。
『れおくんは、俺と帰るから』
淡々と言い放った瀬名は、ため息をかき消すように紅茶を口に含んだ。
『そうしてくれるとありがたいね』
と頷く斎宮と瀬名にチャイニーズレッドの彼は不満をもらした。
『え〜?1週間とは言わずに1ヶ月くらい居たいのに!』
「えっ」
ケチだなぁ!とでも言いたげな彼の発言にAは戸惑っている。
「1ヶ月?!」
斎宮の友人とは言えど、いつも居ない人が家にいるわけで、Aにとって家が落ち着かない空間になっているのだ。
1ヶ月はちょっと……と呟く彼女を置いてきぼりにして話は進んでいく。
『ここは僕の家じゃなく、Aの家なのだから、彼女から出てけと言われたらそれまでなのだよ、月永』
2杯目の紅茶をカップに注ぎ入れながら、斎宮は瞬きをした。
『なぁ、ここにいちゃダメか?』
ぐるりと顔をAの方に向けた月永は、彼のファンならイチコロの台詞を放った。
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蒼也souya(プロフ) - ふわなさん» 感想ありがとうございます。本当に更新してなくてすいません。褒めていただけて嬉しいです!精進していきます…! (4月5日 18時) (レス) id: 2dcf8a9402 (このIDを非表示/違反報告)
ふわな(プロフ) - コメント失礼します!言葉選びや表現の仕方が綺麗ですごく素敵です!作者様の無理のない頻度での更新お待ちしてます。 (12月13日 20時) (レス) id: 58ec19c369 (このIDを非表示/違反報告)
蒼也souya(プロフ) - 浪越柊羽さん» 感想ありがとうございます!嬉しいです。優しいお言葉に小躍りしてしまいました。頑張りたいと思います! (8月27日 6時) (レス) id: 2dcf8a9402 (このIDを非表示/違反報告)
浪越柊羽(プロフ) - 今まで数多くの作品を読んできた中で、この作品が一番のお気に入りです!時間も忘れて何度も読み返してしまいます、、!更新が楽しみです、気長に待っていますね…! (8月21日 18時) (レス) id: f394f39020 (このIDを非表示/違反報告)
蒼也souya(プロフ) - 星さん» ご感想ありがとうございます!嬉しいです!本当に更新遅くてすいません。本当に申し訳ないです。待っていただけることが何よりもありがたいです!頑張ります! (2023年3月13日 0時) (レス) id: 34086f5d07 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蒼也(souya) | 作成日時:2021年9月30日 0時