嫌いな人【月永レオ】

最っ低 ページ27

なんで、って……怖かったから。


あなたと出会ってから知った感情が、こんなにも大きく私を支配したことが怖くなって逃げた。



逃げることしか対処法を知らなかった。



ただ、それだけ。


でもそんな幼い内側は知られたくない。




私が何も答えないせいで沈黙の時間が続く。



背中を冷たい汗が流れた。



あぁ、また怒られる。嫌われる。




「……おれ、そんなに怖いか？」




はっ、と我に返って顔を上げると傷ついたような、寂しそうな顔。




「泣きそうな顔、してたから」




そんな顔、してたかな。


嫌いな人の心配をするなんて、おかしな人。


案外、優しいのかもしれない。




「……ふ、ふふっ、」




思わず笑ってしまい、慌てて横を向くと驚いたような怪訝そうな顔。




「……何がおかしいんだ？」



「いえ、なんでも」




急いで真顔を取り繕うと、ふるっと首を振ってみせる。



私、もしかしたら、この人のこと────




それの、何が気に食わなかったのか。





「……おもしろくないな、お前」



───あの子、本当なんの取り柄もなくて面白くない子なのよ。





夜の静けさに反響する“おもしろくない”の7文字が幼い記憶を呼び覚まし、どくん、と心臓が波打つ。







……あぁ、この人“も”、私に何かを期待する人なのか。




……いや、違う。




心の内にある感情に気づいてサァ、と青ざめる。




私が無意識にこの人に期待してたんだ。




この人となら何かが起こるかも、


存在を認めてもらえるかも、って。




喉元まで込み上げた熱い気持ちが消えていく。




勝手に見ず知らずの人に期待して、



あなたのことが好きなのかとほんの少しだけ勘違いして、




利用、してた……？



だとしたら、私、最っ低だ。

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