９ 不審人物 ページ9
「......というわけです、よろしいですか？」
『はい。大体は把握しました』
「結構。それでは、今日はもうこれで終わりです。帰って良いですよ」
『ありがとうございました』
プロデュースに関する説明が終わると、そう言って椚先生は立ち上がる。
私ももらった資料や教材をまとめて、職員室を出た。
長い廊下を歩き、靴を履いて生徒昇降口を通る。
そしていざ校門に向けて歩き出そうとした時、私の目の前に、明らかにおかしな人物がいた。
『ちょっとそこのあなた、待ちなさい』
「む？」
あまりの異常さについノープランで呼びかける。
呼び止めた相手は割と普通に立ち止まると、濃い紫の長い髪を揺らしながら振り向いた。
翻った髪が、夕日を浴びてきらりと輝く。
「我に何か用であろうか？」
『あ〜...。ごめんなさい、急に呼び止めて』
「否、気にする必要はないのである。して、何用であろうか？」
『(癖の強い口調ね...)』
思っていたよりも穏やかな応答と、思いもしなかった武士のような口調に、少し戸惑う。
アイドル科にまさか武士がいるとは思いもしなかった。
『あんたの腰に挿さってるソレ、刀じゃないの？』
「うむ！よくぞ気づいてくれた！
これは我が家に伝わる刀である。我は幼い頃からこの刀と時間を共にしてきたのだ。故に、学校にも佩刀して通っているのである」
『いや、それダメじゃない』
一訊いたら十帰ってきた彼の回答に、思わず突っ込む。
すると彼は、キョトンとした顔をし、首を傾げた。
「む？だめ...とは？」
『...はぁ。その刀、国の許可は取ってるの？』
「もちろんである！でなければ銃刀法違反になってしまう。
我が家は代々刀と共に生きてきているので、許可を取らないと困ってしまうしな」
『そう...。じゃあ貴方、校則は読んだことある？』
「！校則には目を通していないが、もしや校内では刀は禁じられているのであるか？」
『知らないわよ...。ただ、夢ノ咲は不要なものの持ち込みは基本的に禁止だったはずよ』
「刀は不要ではないが...？」
『学業やアイドル活動にって意味よ』
彼に少しずつ説明していけば、「なるほど」と手を打って言う。
そして、私に向かって頭を下げてきた。
「ご説明、感謝するのである」
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作者名：速川 薫 | 作成日時：2024年3月23日 12時
