20 ライブ後夜 ページ20
『はぁ...』
“人がゴミのようだ”という言葉が似合いすぎた、人口密度の高いライブハウスを出て、息をつく。
そして、さっきまでの出来事をゆっくりと思い出した。
マイクオフで喋っていた話を聞く限り、敬人は腐った夢ノ咲学院を変えるため、教員たちからの評価を得て力をつけ、政治的にこの荒れ果てた現状を打開しようとしていたんだろう。
そしてその足がかりとして、不良の溜まり場になり学院に泥をかける原因となっていた地下ライブハウスでライブ対決を行い、不良たちに悪さをやめさせる算段だった。
その作戦の中心軸となっていたのは零。
敬人はきっと、人の心を掴み言うことを聞かせてしまえる零の不思議な特性を活かして、ライブに大勝しようとしていた。
けれど、零はそれを拒否し、裏切った。
そして、結局状況はいい方にも悪い方にも進展しないままに、ライブ対決は幕を閉じたのだ。
何というか、あまりスッキリしない結果だった。
まあ、敬人の計画が成功していたからといって、すっきりしたかはわからないけど...。
『(零は、どうしてあの場であんな行動に出たのかしら...)』
わからない。
私は彼じゃないから、わかるはずがない。
けれど、零があの状況下で何を考え、どうしてああしたのか、その内容に興味はあった。
『......』
一人で意味もなく頭を回し、到底わかるはずもない内容を考えてみる。
そうしていれば、いつだかのように後ろから肩をつつかれた。
デジャヴを感じながら後ろを振り返れば、そこには案の定零が立っている。
けれどその表情は、ほんの少しだけ困り顔に見えた。
『零...。どうしたの？』
「いや、ライブハウスを出てみたら、たまたまお前の後ろ姿を見つけたからさ。つい」
『ついって何よ...』
零のおかしな言い方に、それこそつい、突っ込んでしまう。
けれどもやっぱり、今の零には違和感を感じて、それ以上は何も言わないことにした。
そうして、どちらも何も言わないまま、ほんの少しの沈黙が訪れる。
しかし、沈黙は長くは続かず、零がふと口を開いた。
「悪かったな、今日は」
『？』
「おまえはプロデューサーとしての勉強のために来てたのに、参考にならないライブしちまってさ」
『...あぁ。そのことなら気にしなくていいわ』
何となくしんみりとした空気で謝られて驚きながらも、そう返す。
私の言葉にようやくこちらをきちんと見た零の瞳は、少しだけ寂しそうに見えた。
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作者名：速川 薫 | 作成日時：2024年3月23日 12時
