19 まさかの展開 ページ19
私が考え事をしている間にも、ライブは進行していく。
いつまでもこうして観客の足を眺めていても仕方ないと感じた私は、しゃがみながらライブハウスの後ろの方まで下がり、ちょうど空いていたカウンター席の椅子に座った。
「あれ？君可愛いね。こんなところで何してるの？
暇なら俺と遊ばない？」
席に座ると、カウンターのところに立っていた金髪の男に話しかけられる。
けれど、ちょうどそのタイミングで紅郎が舞台に上がってきたため、私の注意は男ではなく紅郎の方へ自然と向いた。
『悪いけど、今日はあいつらのライブを見学させてもらいにきてるだけだから、ライブ見たら帰るわよ』
「ええ？つれないなあ。
でも、ちゃんと返事はしてくれるあたり、君って結構いい子だね♪」
『うるさいわね。ライブ見るんだから、黙っててちょうだい』
男の言葉に返事を返しながらも、ステージの方に視線を向ける。
紅郎と零は何やらステージ上で話をしていたようだったけど、少しすると紅郎はスタンドマイクを持ち上げて、迫力のある歌声をライブハウスに響かせた。
今回は衣装の製作をしていたという話だから、練習場所にはいたのかもしれないけど、ちゃんと合わせるのは今が初めてのはず。
それでもしっかりと『デッドマンズ』の中に溶け込んで、自分の持ち味を出せている紅郎は、自分では不良だなんだと言っていたけれど、センスはあると思う。
きっと、もっときちんと練習すれば、結構な人気になるだろう。
私がそうして紅郎のことを考えていると、ライブハウス全体に間伸びして声が響く。
それは紛れもなく、ステージ上にいる零の声だった。
『はいはい！注目！ここで重大発表〜！』
ライブに熱狂していた観客たちの視線が、一斉に零の方を向く。
もちろん、そんなことで零がいつもの調子を崩すことはなく...。
零は信じられないような発言をした。
“さっきまで一緒に歌ってたけど、投票の前に仲間をやめる。
そしてこの場で新たなグループを結成する。参加したい奴は何人でも大歓迎。一緒に楽しく歌おう”
敬人の反応を見る限り、さっきの話を聞いた限り、この作戦の軸は零だ。
それなのに零がグループを抜けたら、どうなるか。
それは見るまでもなくわかった。
その後結局、デッドマンズ含めたくさんの客たちを入れた大きなグループで、みんな一緒に歌い、デッドマンズライブは何の状況の発展ももたらさないまま、失敗に終わった。
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作者名：速川 薫 | 作成日時：2024年3月23日 12時
