18 裏の事情 ページ18
『わっ』
観客がよりステージに近づこうと前へ少しづつ出てきて、その力に押されて最前列からはみ出る。
ステージのすぐ真下の暗いあたりまでこけてしまった私は、列にも戻れないことを見越して、ステージ下でおとなしくしていることにした。
ステージ下は、思っていたよりもステージの音がよく聞こえる。
歌声、語りかけ、ステップの足音。
そして、マイクを切った話し声までかすかに聞こえた。
「......これで満足かよ、坊主」
「ああ、おおむね目論み通りの展開だ。あんたが約束どおり、俺の言うことを一度だけ聞いてくれて助かった」
「約束は破らね〜よ」
そんな敬人と零の会話が漏れ聞こえ、ふっと思考がその話に切り替わる。
このライブには、何か他に目的があるのだと、二人の会話は暗にそれが示されている気がした。
「そもそもの目的は、不良の溜まり場と化しているこの地下ライブハウスの浄化と支配だ」
「うん。そもそもの始まりは、それだったよな。不良どもを成敗し、教師陣などからの好評を得る。
地盤を固めつつ目障りな連中を片付けて、次のステップに進む」
「そのための、このイベントだ。【デッドマンズライブ】と名付けたこの催しによって、地下ライブハウスの騒動は解決する」
そんな話が、きっと私にだけ聞こえる。
流石にアイドルというか、客に聞こえるボリュームはわかってるらしい。
客の中に、この話に反応を示している人は誰もいなかった。
それにしても＿＿。
『(そういうことだったのね)』
零はともかく、明らかに真面目そうな生徒会の副会長が、こんな寂れた地下ライブハウスでライブなんて...とは思っていたけれど、そういう意図があったのかと納得する。
このライブは、生徒会の地位を上げるための舞台として行われていたわけだ。
......けれど、二人の会話的に、零はこの作戦にあんまり乗り気じゃなかったんだろうか。
敬人の話し方では、零はこの作戦に賛成せず、力を貸してくれるかもわからないような相手だったというように聞こえた。
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作者名：速川 薫 | 作成日時：2024年3月23日 12時
