14 例の人物 ページ14
零から頼まれた後、見かけるたびに乙狩という子を気にしてみていたけれど、同じ学年の灰色の髪の子が気にかけているのか、特別困ったり、浮いたりしているということはなさそうだった。
それでも一応、と思って声をかければ、思っていた以上に普通の子で、変なやつじゃなくて少し安心した。
『アドニス』
「？ああ、綴先輩か」
『最近はどう？』
「夢ノ咲学院での生活にも慣れてきたぞ。まだまだ難しいこともあるが、周囲の人が心優しいので、色々と助けてもらっている」
『そう』
たまたま見かけて声をかけてみれば、近況を話してくれる。
学院に限らず、周りの人に良くしてもらえるのは、きっとアドニスが纏う空気のおかげだろう。
「その人たちと同じで、綴先輩も優しい人だな」
『っ....。別に、そんなことないわよ』
「？綴先輩は優しいぞ？」
『っ！そう。...それじゃ、私はこの後、用事があるから』
「ああ、声をかけてくれてありがとう、綴先輩」
『別に、それくらい気にしなくていいわ』
アドニスはまともだけど、素直すぎて調子が狂う。
こちらが恥ずかしくなるようなことを平気で言ってくるのだけは、いただけないと思った。
＿＿＿＿
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＿＿
零から頼み事をされた１週間後の放課後。
帰り道に、大きな荷物を抱えた紅郎を見かけた。
声をかければ、荷物を持ったまま振り返る。
「綴か、久しぶりだな」
『そうね。...ところで、その荷物どうしたの？』
「ああ、これはな、今日地下ライブハウスでやるライブの衣装とかのセットだよ」
『ライブ？』
紅郎からの意外な言葉に疑問の声をあげれば、紅郎は荷物を持ち直しながら答えた。
「おう。蓮巳の旦那と二年の大神、それから朔間でライブをするんだとよ。
俺は秘密でやってた服の準備の手伝いとかを公認してもらえるってことで、今回のライブの衣装を作ることになったんだよ」
『...あんた、裁縫とかできたのね』
「まあな」
『......そのライブ、私も見にいっていいかしら？』
「？いいんじゃねえか？てか、見にきてくれるのかよ」
『ええ。プロデュース科の課題とかやってても、完成形とか、なんのための操作かとか、わかりづらいもの。ライブ見た方がその辺りはわかりやすいでしょ、多分』
「まあ...そうかもな」
『じゃあいくわ』
そう言って紅郎のもつ荷物の一番上のものを取り上げる。
振り返れば、紅郎は驚いたような顔をしていた。
『案内よろしく』
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作者名：速川 薫 | 作成日時：2024年3月23日 12時
