金曜日、一緒にご飯を食べるだけ。【そらる】

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お騒がせしました……と萎れたまま部屋を出ていった彼方くんに手を振り、2人分の食器を片付ける。なかなか朝に見ることがない光景だから、ちょっと新鮮かも。

食後に用意したコーヒー。マグカップの底に僅かに残ったそれを嚥下し、息を細く長く吐き出す。

今日、私は彼に一つ、小さな隠し事をした。


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昨日の夜遅く、まふくんから謝罪の言葉と共に救援要請が来たのは本当だ。彼方くんが酔い潰れたのも紛れもない事実。

以前2人が酔っていたところを発見した時と同じように、彼方くんを私の部屋に運び、まふくんに酔い覚ましの水と夜食を提供した。

そこで違ってくるのは、まふくんが部屋を立ち去ったあとも、彼方くんが一向に目を覚まさなかったということだ。

彼は元々寝起きが悪い性質(たち)だし、お酒の力もあって眠りが深いのだろう。長い打ち合わせと飲み会で疲れているのかもしれないけど、このままここに寝かせておく訳にもいかないし。

ほんの少し悩んだものの、私は彼を起こすことにした。……起こそうとしたんだけど。


歳に似合わないあどけなさの残る寝顔。閉じられた瞳の、その目尻に浮かぶ滴を目にして、私の身体の芯がゆっくりと冷えていくのが分かった。

そのあとは、もう何も考えられなくて。つぅと流れた涙を指先で受け止め、奥歯を噛み締めた。

私に見せないだけで、きっと彼にも苦しみとか悩みとかがあって。普段笑顔の下に隠れているそれが溢れた時、ちょっとだけ涙が零れちゃうんだろう。そしてそれを隠したまま、次の日にはまた同じ眠そうな顔で笑うんだろう。

私といる時間は、一緒に食べるご飯は、少しでも彼の支えになれているだろうか。この部屋は、彼にとって肩の荷を下ろせるような場所になっているだろうか。

もやもやと胸の奥に広がる不安のような何かをかき消すように、ぎゅっと目を瞑った。


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朝を迎え、目を覚ました彼方くんに朝食を用意した。ひどく簡単なものだったけど、彼はとても嬉しそうにトーストやハムエッグを頬張り、スープを飲んでいた。

彼は、昨晩自分が泣いていたことなんて少しも気付いていないようだった。だから私も何も言わない。誰にだって触れてほしくないことはあるだろうから。

彼に美味しいご飯を作る。心が休まる時間を作る。そうしてほんの少しでもその疲れを癒せたなら、それ以上望むことは無いだろう。

豆腐ハンバーグ→←ハムエッグ

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