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___それから月日は過ぎ、
『…ッ…姉さん…!』
最愛の姉が上弦の鬼によって殺された。
その後は私が蝶屋敷を引き継ぎ、
姉のように笑顔を絶やさず、蝶屋敷とあの子達を護ってきた。
その傍ら、私は…姉を殺した憎き鬼を葬る為
『(この程度の毒じゃ…鬼は殺せない…。)』
『(私が必ず…姉さんの仇を、____)』
自室へと篭り、毒の開発へと打ち込んでいると
『しのぶさん、食事を…持ってきました。』
廊下の方から紫の声が聞こえ、
『…ありがとうございます、部屋の前に置いていただけると助かります。』
取り繕った声色で、紫の言葉に対してそう返す。
襖の向こうからは『…分かりました、』と返答する紫の声と
お盆を静かに置く音が聞こえ、
その後も引き続き、毒の開発を進めようとすると
『…しのぶさん、』
私の名を呼ぶ微かな声が耳へと届き、
一旦手を止め、部屋の襖へと手を掛ける。
『どうかしましたか…?』
笑顔を浮かべながらそう尋ねると、
『……、』
紫は何か話したそうな様子で、視線を落としながらも
『あまり…無理をしないで下さいね。___』
そう一言告げて、その場を立ち去っていった。
私はそんな彼女の背中を見送った後、
お盆を手に取りながら、ふたたび部屋へと戻る。
『(……、)』
先程、彼女に告げられた言葉を思い出しながらも
食事には一切手を付けず、未完成の毒へと目を向ける。
『(多少…無理をしないと、やっていけないんですよ…。___)』
あの頃の私は、自分自身の事で精一杯で
彼女の気持ちに…目を向ける程の余裕は、持ち合わせていなかった。
___後日、紫が私の部屋へと訪ねてきたかと思うと
私の目の前へと腰を下ろし、改まった様子で此方へと視線を向ける。
そして、彼女は…自身の蝶の髪飾りへと手を伸ばし
『しのぶさん、今まで…お世話になりました。』
『私はこの屋敷を出て、育手のもとで修行を積み…剣士になろうと思います。』
その髪飾りを返すようにして、静かに畳の上へと置く。
『え…?』
最初は…紫が何を言っているのか、理解出来なかった。
紫は困惑する私を気に留める事なく、ふたたび口を開き
『私はもう…この安全な屋敷で、あなたに護られてばかりいるのは嫌です。』
『私も…あの人みたいに、皆を…しのぶさんを救える程、強くなりたい…。』
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作者名:雫 | 作成日時:2023年11月1日 0時