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(胡蝶 side)
___これは今から、六年ほど前の話。
姉の代わりに隊士に手当てを施し、用具箱を抱え廊下を歩く途中
廊下の窓の前で、立ち止まる少女の姿が目に入り
『(あ…、また見てる…。)』
彼女の視線の先には、いつも決まって…とある白髪の隊士の姿があった。
彼女はその隊士と顔を合わせる度に、憎まれ口を叩いてはいるものの
『……』
時々こうして、遠くから彼の姿を静かに見つめており
『(紫はきっと…不死川さんの事が好きなのね…。)』
そんな事を思いながら紫に声をかける事なく、その場を後にした。
…けれど、そんな私の読みは大いに外れ
『聞いて、しのぶ…!紫、今度粂野くんと二人で出掛けるんですって…!』
『新しい着物でも買ってあげようかしら…、そうなると…着物に合わせた髪飾りも必要よね…!』
何やら嬉しそうな様子で、報告してくる姉さんを目にし
『…?』
話の筋が掴めず、黙って姉さんを見つめていると
『あら…しのぶ、もしかして知らないの?』
『紫は粂野くんの事が好きなのよ。『初恋だ』って言っていたし…私としては、紫の恋を応援して___』
その後も、姉さんは楽しそうに話続けるものの
『(紫が…粂野さんを好き…?不死川さんじゃなくて…?)』
『(あの視線の意味は…そういうものだと思ってたけど…、違うって事…?)』
姉さんの話を聞きながら、そんな疑問を抱くと共に
紫が不死川さんだけに向ける、あの視線の正体が知りたくなった。
だから、私は直接本人のもとへと訪れ
『紫は…どうしていつも、不死川さんを見ているんですか。』
いつものように、遠目から不死川さんを見ていた彼女に対してそう声を掛ける。
『……、』
紫は少し考え込むような様子を見せながらも、此方へと視線を向けて
『しのぶさんは…もし、生まれ変われるとしたら何になりたいですか。』
質問には答えず、唐突にそんな問いを持ち掛ける。
私は一瞬戸惑いながらも、紫の問いに答えるようにして
『…姉さん…?』
疑問系ではありながらも、そう返答すると
紫は『でしょうね』と告げた後、窓の外へと視線を移し
『私は…出来る事なら、あの人になりたかったですよ。___』
白髪の彼へと目を向けて、静かにそう呟いた。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年11月1日 0時