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(不死川 side)
___最後にアイツと話をしたのは、二週間ほど前の事で
先程蝶屋敷を訪れた際、アイツについて神崎に尋ねたところ
『紫なら…長期の任務でしばらく帰って来ないと、しのぶ様が仰ってました。』
そう言葉を返され、蝶屋敷を出た後は一人食事処へと向かう。
アイツとよく訪れる食事処へと辿り着き、注文を待つ間
「(アイツ…長期の任務だって一言も言ってなかったよなァ…。)」
どうしてあの時、教えてくれなかったのか…だなんていう苛立ちと
目の前の空席に、どうしようもない違和感を覚えてしまい
「(いつ…戻るんだろうなァ、__)」
そんな事を考えながら食事を終え、その日はそのまま屋敷へと帰宅した。
それからまた、数週間が経った頃
相変わらず…アイツの姿を蝶屋敷で見る事はなく
「(代えの包帯貰うついでに…アイツがいつ帰ってくるか、胡蝶に聞いてみるかァ…。)」
そんな事を思いながら、診察室へと足を運んだものの
そこに胡蝶の姿はなく、用具箱が机上へと置かれているだけで
「(いねェみてェだし…勝手に貰ってもいいよなァ)」
用具箱の蓋を開け、包帯を取り出そうとしたその時。
開いていた窓から、乾いた風が入り込み
付近の棚から一通の手紙が滑り落ちる。
その場に屈み、床へと落ちたそれを拾おうとすると
「(『黒羽…紫』…?)」
手紙の裏面には、見覚えのある文字でアイツの名が刻まれており
その手紙をゆっくりと裏返すと、そこには____
「……は、」
思わず気の抜けた声が出ると同時に、すぐさま封から中身を取り出し
「……、…____」
書かれている内容に一通り目を通し、思わず唖然としてしまう。
…確かにこれは、俺が以前望んでいた事だった。
けれど、俺がその先に望んでいたのは…こんな結末ではなくて
「『死期が近くて…もう刀は握れねェ…、だから隊を降りる』だァ…?」
そう呟くと同時に『除隊届』と記された、封を静かに握り締める。
「お前は何も言わず…独りで死ぬ気でいンのかァ…?」
「…ふざけた事…言ってンじゃねェ、…___」
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作者名:雫 | 作成日時:2023年11月1日 0時