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___某日、蝶屋敷にて
薄暗い自室では、文を書き綴る黒羽の姿があり
「(これでよし…っと、)」
黒羽は書き終えた文を封筒に収め、それを机上へと置く。
その後、黒羽は自室にある鏡へと目を向けて
蝶の髪飾りを外し、手紙同様それを机上へと置いた後
「……、…____」
一度はしまった木箱を懐から取り出し、手紙の側へと静かに置く。
夜明けを迎える前に、黒羽は風呂敷を抱えながら玄関の方へと向かい
「(…眠、)」
眠い目を擦りながら、屋敷の戸へと手を掛けると
「また…あなたは、此処を離れてしまうのですね。」
慣れ親しんだ声が耳へと届き、
「随分と…早いお目覚めですね、しのぶさん。」
黒羽が振り返ると、そこには…いつものような微笑を浮かべる胡蝶の姿があった。
胡蝶の手には、先程黒羽が書き綴った文が握られており
「……」
胡蝶は黒羽を静かに見つめた後、黒羽のもとへと近寄り
「紫…、忘れ物ですよ。」
懐から蝶の髪飾りを取り出し、それを黒羽の頭へと挿し込んでいく。
「しのぶさん…その文を読んだのであれば、言わずとも分かるでしょう。私はもう、___」
髪飾りを挿し込む胡蝶に対して、黒羽がそう声を掛けると
「誰が何と言おうと、あなたは…私の自慢の継子ですよ。」
胡蝶はにこやかに微笑むと同時に、黒羽に対してそんな言葉を投げ掛け
対する黒羽は一瞬目を見開いた後
「そう…ですか…。それは…光栄です、」
口角を持ち上げ、微笑を取り繕いながら言葉を返す。
それから胡蝶は、懐から小さな木箱を取り出し
「これも…忘れていましたよ。」
「普段忘れ物なんてしないあなたが、こんなにも忘れ物をするなんて…珍しいですね。」
そう告げた後、胡蝶は木箱の蓋をそっと開け
「この櫛、よく持ち歩いて使ってましたよね。手入れもよく行き届いているようで…」
「あなたにとって大事なものなんでしょう、…簡単に手放してはいけませんよ。」
そう告げると同時に蓋を閉め、黒く光る櫛が収められた木箱を黒羽へと手渡す。
「……、」
黒羽は胡蝶から受け取った木箱へと視線を落とし、
「こんな物…いつでも手放せると思ってたんですけどね、___」
そう呟きながら木箱を懐へと収め、
胡蝶に背を向け、ふたたび屋敷の戸へと手を掛ける。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年11月1日 0時