黒蝶の夢・参【不死川実弥】 (ページ29)

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「(お前の家族の仇『も』…ね、)」

きっとこの人は、今までいくつもの…誰かの思いを代わりに背負い

全ての鬼を滅する為、ただひたすら剣を握ってきた。

己の身を顧みず、誰かの為に剣を振るうその姿は…つくづく鼻に付き

「アンタ…いつまで頭撫でてるんですか、気分悪いんで辞めてもらっていいですか。」

「うるせェ、大人しく撫でられてろォ」

誰かを思いやる…不器用なその優しさが

私にとっては今も昔も、有毒でしかないというのに

「(この毒は…一生抜け切らないんでしょうね。)」

その毒を抜かず、放置し続けてる自分は

もしかしたら…目の前のコイツよりも頭が悪いのかもしれない。

「___不死川さん、やっぱり…おぶって貰っていいですか。隠、なかなか来そうにないんで。」

そう言ってアイツの背を借りると共に、首元へと手を回し

「オイ…首絞めようとすンじゃねェ、殺す気かァ」

　
「あ、つい…加減間違えました。」

緩やかな風に吹かれながら、澄み切った夜空へと目を向ける。

月明かりの下では、可憐な蝶が優雅に舞っており

「…不死川さん、」

「何だァ」

空へと羽ばたく蝶へと目を向けながら、

「もしこの先…どんな事があっても、アンタは後ろ向いちゃダメですよ。」

「前だけ見据えて、生き抜いて下さい。…立ち止まってる暇なんて、アンタにはないんですからね。___」

そんな言葉を投げ掛けると同時に、かつての記憶が思い起こされ

『風柱…就任、おめでとう御座います。』

匡近が死んだ時、ずっと見続けてきたアイツの背中から

戦意が喪失し欠けているのが…僅ながらに感じ取れた。

あの時アイツに掛けた言葉は、ただの皮肉ではなく

廃れた背中を押すための、笑顔と言葉であった事に

「今度は…幻滅させないで下さいね、」

きっとアイツは、今でも気付いていないだろうけれど

「…？お前、さっきから何の話___」

「では、私はこれから寝るので…静かに運んで下さい。揺らしたら絞殺します、」

その思いには…ずっと気付かないままでいい。

それで持って、アンタは次こそ私を幻滅させないよう

いずれ訪れる私の死など気に留めず、前だけ向いて生きて欲しい。

「(もう雨は…嫌なんですよ、___)」

次の日も、そのまた次の日も…晴れの日が続くことを願いながら

静かに瞼を閉じ、深い眠りへと落ちていった。