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『それは…つまり…、』
紫は私の言葉を待たずして、ふたたび口を開き
『体内に毒を取り込む事で鬼殺を行う……この体質を持つ私であれば、それが可能だと思うんですよ。』
いつになくはっきりとした口調で、そんな言葉を投げかける。
『あなたは…自分が何を言っているか、分かっているんですか。』
『藤の花の毒というのは…鬼だけでなく、人体にとっても____』
その選択を取ろうとする紫を、引き留めようとしたものの
『そんなの…覚悟の上で言ってますよ、』
『自らを犠牲にしてでも護りたいものが…叶えたい夢が、その先にはあるんですよ…。』
僅かに視線を落としながら、紫は静かにそう呟く。
『夢…ですか、?』
紫には、かつて『医者になりたい』という夢があった。
『…はい、』
その夢を捨て、刀を握った少女が語った新たな夢は
『__________』
『こんな夢…あなたにとっては何でもない事でしょう。』
『でも、私に取っては…以前の夢よりもずっと価値のある事ですよ。』
『一応言っておきますけど…この事は不死川さんには言わないで下さいね。あの人、殴って来そうなんで。』
冗談混じりの笑みを溢しながら、そう告げる紫の姿を見て
『……』
切実なその思いに、胸が締め付けられると同時に
『…分かりました、あなたに…私の毒を譲ります。』
彼女の思いを汲み、私はあの日…自身の作り出した毒を紫に手渡した。
そこには当時、自分の事で手一杯で…彼女に目を向けられなかった罪悪感や
彼女にかつての自身の面影を重ね、手を差し伸べたい…そんな思いがありはしたものの
私が…彼女に毒を提供した、一番の理由というのは
『(あの子は…自らを犠牲にしてでも、私達の為に___)』
彼女が剣を振るう理由は、自分自身と…そして、不死川さんにある事を知ってしまったから。
紫の夢は…正直、夢と言えるほど大層なものではなくて
…私にとってはなんて事ない、不死川さんにとっても…きっとなんて事ないものではあるだろうけれど
紫はそこに意味を見出し、私達の為に刀を握った。
そんなあの子の思いを、無碍にするだなんて事は…出来る筈もなく
それと同時に私は…幼いあの子にそんな思いを抱かせてしまった事を
『(やはり私は…姉さんのようにはなれませんね…。)』
酷く後悔しながらも、姉のような笑顔を取り繕い続けた。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年11月1日 0時