episode63 ページ17
・
『……すみません』
喉から絞り出した言葉はたった五文字、小さくてか細いその声はけれど中也さんの耳にはしっかり届いたようで。
「今日のA、謝ってばっかだな。…そんな顔させてぇわけじゃねェんだけど上手くいかねェな」
困ったように中也さんが笑いながらそう云う。
……私だって、貴方にそんな顔なんてさせたくないしそんなこと思ってほしくないのに。
どちらもそれ以上何か口を開くわけではなく、静寂が辺りを包み込む。訪れた沈黙が、永遠のようだった。
ピリリリリ───
そんな気まずい空気を切り裂くが如く響き渡ったのは、中也さんの携帯端末。無機質な電子音はしばらく無遠慮に鳴り響いたのちに持ち主によってその音を止められる。
「──俺だ」
その口調と様子から、電話の相手はきっと中也さんの部下。用件は任務に多少の支障が出たか、早急に中也さんの手を借りたいかのどちらかで、現場に中也さんを求めているのは明らかだ。
寂しいとも思うけれど、これ以上この人の手を煩わせるわけにはいかない。だから、『私のことは気にしないでください。お時間取って頂いてありがとうございました』と。そう云って中也さんを送り出すのが、最適解。
『……行かないで』
それなのに、実際音になったのはどう足掻いても“正解ではない”間違った言葉。
弱くて烏滸がましい、隠すはずの本音。
『違うんです、さっきのは。言葉を間違えました。電話の相手はマフィア傘下にある組織の調整を任されている構成員からですよね。私はもう大丈夫なので、行ってあげてください』
慌てて付け足された言の葉なんて、滑稽以外の何物でもない。
頭を下げ早口で弁明を口にする輩をいつも蔑んだ目で見てしまっていたけれど。失態を取り返せないとわかっていながらも何故意味もない無駄なことをするのだろうかと、不思議でならなかったけれど。彼等の気持ちが、今初めてわかった。
死刑宣告を受けるような気持ちで、中也さんの次の言葉を待つ。
唇が動いた瞬間に覚悟を決め、ぎゅっと目を閉じた。
「それは手前らに任せた案件だ。そっちでなんとかしろ」
けれど私の予想に反して、中也さんはそう云って電話を切ってしまった。
『……なんで』
意味がわからなくて、脳内処理が追いつかなくて。
ただ呆然と目を見開くことしかできない私に中也さんは云った。
「今はこっちが最優先案件だろ」
視界が歪むのを、私は止めることができなかった。
episode64 ※ STORM BRINGERキャラ有→←episode62
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1064人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
暁月臨(プロフ) - きなこもちさん» きなこもちさんのペースで頑張って下さい！！ 気長に待ってます！！(*≧∀≦*) (6月21日 21時) (
レス) id: 59dc159e7e (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 暁月臨さん» 暁月臨さん嬉しいお言葉ありがとうございます、更新止まり気味ですがそう言ってもらえるととても励みになります！頑張りますm(_ _)m (6月21日 18時) (レス) id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
暁月臨(プロフ) - この作品大好きです！更新よろしくお願いします！！頑張って下さい！！！ (6月18日 23時) (レス) @page20 id: 59dc159e7e (このIDを非表示/違反報告)
ミミ(プロフ) - きなこもちさん» 了解しました! (2021年11月11日 12時) (レス) id: 3c71f1d526 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - ミミさん» 私の端末が最近重くてボード開かないので、確認出来次第お返事します、すみませんm(_ _)m (2021年11月11日 0時) (レス) id: 8cb9599803 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：きなこもち | 作成日時：2021年9月23日 20時
