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episode62 ページ16




『急に連絡いれてしまって本当すみません』

ペコリと頭を下げる私に、連絡相手である中也さんは「気にすんなよ」とくしゃりと笑みを浮かべた。
それはいつもと変わらない──否、若干普段よりも機嫌の良さそうな中也さんだったので。
今日の中也さんの予定は得意でない書類仕事が主だった筈なのに何故だろう、と理由を尋ねれば「Aからの誘いなんて滅多にねぇだろ」とのこと。
云いようのない幸福感と愛しさに襲われて危うく心臓が止まりかかる。本当に、此の人は一体どれほど私のことを振り回せば気が済むのだろう。




私が中也さんの言葉に悶えている間も、それが落ち着いて何から話そうと言葉を選んでいる間も。


中也さんは話を促すわけでも急かすわけでもなく、他愛もない…と云うには烏滸がましいが、取り止めのない雑談を続けてくれた。


彼の優しさが身に染みる一方で、歳下相手に“時間の無駄遣いはしたくない”と述べておきながら、何一つ肝心の言葉を吐き出せない自分自身に嫌気が差した。




いつから、私はこんなにも弱くなったのだろうか。






「……大丈夫か?」


思わず俯いてしまった頭の上から降ってくる声は穏やかで優しくて、何もかも吐き出してしまいたくなるほどの甘さを含んでいて




『……私の居場所は、結局何処にもないんでしょうか』



気づけばほぼ八つ当たりの勢いで中也さんに言葉をぶつけていた




『……すみません。只の戯言です、忘れてく「普通に無理だろ」』


無理があると分かっていながら撤回を求めた言葉は聞き入れられるはずもなく。けれどあまりに疾い否定の言葉も考えものだ。
だって、まるで私のことを大事に思ってくれてるんじゃないかって勘違いしそうになる。
否、大事にされている自負はあるけれどそれは直属の部下としてであって。特別な意味なんてなにもないのに、意味を見出してしまいたくなる。


「A」



優しい中也さんが、私に弱音を吐かれてどんな言葉を掛けるかなんて予測がついている癖に。
私の望む言葉を、欲している言葉を与えてくれる人だとわかっていながら答えを求めるのだから我ながら滑稽だ。





「……今は(・・)欲しがってる言葉やれねぇぞ」





けれど、降ってきた言葉は予想していたものとだいぶ違くて少し呆れの色を乗せていて。



「俺が何言っても、心の中で打ち消すんだろ。そんな奴にやる言葉はねぇよ」



鋭い指摘はまさしく正論。
私はやはり、ただ俯くことしかできなかった。

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暁月臨(プロフ) - きなこもちさん» きなこもちさんのペースで頑張って下さい!! 気長に待ってます!!(*≧∀≦*) (6月21日 21時) (レス) id: 59dc159e7e (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 暁月臨さん» 暁月臨さん嬉しいお言葉ありがとうございます、更新止まり気味ですがそう言ってもらえるととても励みになります!頑張りますm(_ _)m (6月21日 18時) (レス) id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
暁月臨(プロフ) - この作品大好きです!更新よろしくお願いします!!頑張って下さい!!! (6月18日 23時) (レス) @page20 id: 59dc159e7e (このIDを非表示/違反報告)
ミミ(プロフ) - きなこもちさん» 了解しました! (2021年11月11日 12時) (レス) id: 3c71f1d526 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - ミミさん» 私の端末が最近重くてボード開かないので、確認出来次第お返事します、すみませんm(_ _)m (2021年11月11日 0時) (レス) id: 8cb9599803 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きなこもち | 作成日時:2021年9月23日 20時

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