第壱妖 ヒトとの出逢い 其ノ壱 ページ2
「ここです。霊媒師様」
この地では、霊媒師は珍しいという。おかげで仕事が殺到し、疲れた一日になった。まぁ、真面目に仕事はしないけれど。
案内された家に入ると、案の定、妖気を感じた。人を殺しかねない、怪しい妖気。
「ここからは、一人で行かせてくれ」
私は家主をその場に留まらせると、妖気のある倉庫の方へ足を運ぶ。そこには、包丁を持った男の霊がいた。人を殺すつもりだったのだろう。
私を見つけ、包丁を向けてくる。だが、すぐにその手は下がった。
「…?」
違和感を感じたのか、男の霊は首を捻る。私は、倉庫の壁に寄りかかった。
「私から妖気が感じるのだろう?そうだ。私も人の子ではない。妖だ」
男の霊は目を見開く。信じられないといった表情で。
「人間共には呆れたものだ。こんなにも近くに妖がいるのに、何の疑いもかけないなど」
私は嘲笑した。人の神頼みするように、私に縋り付くあの顔。滑稽だ。
「私はお前を殺さない。むしろ、逃がす」
そう言い、私は男の霊に肉を渡した。
「腹が減っていたんだろう。それは、豚でも牛でも鳥でも魚でもない。…人だ」
昨日の夜、酔っ払っていた肉付きのいい男を殺した。さぞかし、裕福な家庭で育ってきたのだろう。腹立たしい。
「妖は、人肉が一番、口に合う。どうだ?美味いだろう?」
男の霊は勢いよく首を縦に振りながら、人肉に食らいついていた。よく見ると、男の霊の首に青い痣が見えた。縄か何かで、首を締められ、死んだのだろう。苦しかったろうに。
「それを食べ終わったら、どこか遠い所へ行け。そして、腹が減ったら、そこらの人でも殺せ」
男の霊は一瞬、戸惑った。それは、人間の性。
人殺しは駄目なこと。人殺しは罪。
だが、それがなんだ。私達は___
「___人間に殺されたじゃないか」
そうだ。人間は悪。人間は塵。人間は酷。人間の存在が罪なのだ。私達は殺る側じゃない。殺られた側だ。
男の霊は、走り去った。入れ替わるように、家主が倉庫に入ってくる。
「どうでした?妖は?」
「あぁ、退治したさ」
「本当ですか!?ありがとうございます!何かお望みでもありましたら、なんなりと」
「そうだなぁ、強いて言うなら…」
…腹が減ったよ。
血液が噴き出す。上手くなさそうな老人の肉だが、別にいいだろう。小腹満たしにはなる。
「ごちそうさま」
そう、これが私。霊媒師を装い、妖を逃がし、逃がした妖に人を殺させる。
人を憎み、人を恨み、人を殺す。
いつか、昔の自分に戻れるその日まで。
其ノ弐→←序妖 800年前から愛してて、800年後も愛してるから
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ずお - これは……左近推しにとって嬉しい!城に行って半兵衛様にも会って欲しかったたり……します。 更新楽しみに待ってますね! (2020年2月24日 14時) (レス) id: 8a05a5b115 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:天国水晶 | 作成日時:2019年2月18日 22時