*15 ページ17
約4ヶ月ぶりに帰国した母国はちょうど3月初旬で、未だに寒かった。
まだ、辺りには解け残った雪が降り積もっている。
私は王宮の本殿への階段を急ぎ足で駆け上りながら、服装や自分の身なりを適当に整える。
やらかした、出遅れた。
「軍議中失礼致します。ただ今、帰国致しました」
私は入口で片膝を地面へとおろし、左手拳を右手の掌につける。
帰国命令が来たのは2月初旬。
本当なら、2月下旬には帰国できるはずだったのに、趙の関門でしばらく足止めされたのだ。
「ほぉ、これは、これは、思っていたのとは随分違うのが来たのぅ。今回のことは、全てそなたに任せると言うたが、本当に大丈夫なんじゃろうな?昌平君」
一斉に向けられる好奇な目に私は居心地の悪さを感じながらも、頭を下げたままずっと黙っていた。
「ご安心を、丞相。この者は私が最も信頼する側近の1人です。韓攻めの策もこの者が土台を組み立てました」
「ほぅ、それはなんと.......」
感心したように喉を鳴らす呂不韋の声に私はただただ黙る。
そもそも、私がなぜ呼び戻されたのかをまだ説明されていない。
蒙驁将軍を総大将とした韓攻めも、私と先生で考えた通りに進んでいるはずだ。
「面をあげよ、羋熊A。そして、こちらへ」
「ハ!」
政様の声に顔を上げると凛とした雰囲気を纏う政様と目が合った。
未だに呂不韋に実権を握られているとはいえ、少し見ないうちに随分強くなられた気がする。
私は大きな地図が広げられている所まで足を進め、立ち止まる。
「さすが、秦の宝石じゃ。立ち振る舞いも美しい。むさくるしい男どもの戦場はそなたには似合わんのぅ。どうじゃ、わしの元に来んか?今よりも良い待遇を保証するぞ、羋熊A」
「丞相、ご冗談は.......」
「わしは羋熊A、本人に聞いておる」
呂不韋は止めに入ろうとする先生の声を遮り、私の目を舐めまわすようにこちらを凝視する。
その圧に押されながらも、私は負けじと口を開く。
「私を帰国させたのは、そんな事のためでしょうか、丞相。わざわざ私を燕から帰国させたからにはもっと重要な話があるはず。ご要件を早くお聞かせ願います。.......あと、私は殿の元からは絶対に離れませんので」
私はそう言い終わると、呂不韋に嫌味ったらしい笑顔を向けておいた。
234人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「逆ハー」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
涼(プロフ) - llmzさん» コメントありがとうございます!!蒙恬かっこいいですよね!珠海平原での蒙恬は鼻血ものです笑オチはまだ考えてないけど、考えときます笑これからもよろしくお願いします! (2019年7月6日 7時) (レス) id: 09e4b51586 (このIDを非表示/違反報告)
llmz(プロフ) - 更新ありがとうございます。毎日楽しく読まさせて貰っていて、とても続きが気になります!蒙恬推しの私からするとオチは蒙恬がいいなと思います。てへ。お忙しいとは思いますが陰ながら応援しています。コメント失礼致しました。 (2019年7月5日 21時) (レス) id: 13d9da937b (このIDを非表示/違反報告)
涼(プロフ) - 仙花さん» いえいえ、私もこの機会に中国史について色々振り返れたので、楽しかったです!このような機会をありがとうございました!! (2019年6月17日 16時) (レス) id: 09e4b51586 (このIDを非表示/違反報告)
仙花 - 羋というのは楚の王族に使われる姓だと聞いたことがあったので、熊啓が名前なんだと私は解釈してましたが、熊という名前にそんな意味があったんですね。分かりやすい説明ありがとうございます。 (2019年6月17日 15時) (レス) id: 8f9569ed44 (このIDを非表示/違反報告)
涼(プロフ) - 仙花さん» コメントありがとうございます!昌平君の本名についてはまた本文で言及させて頂きたいとおもうので、そちらを見ていただけると嬉しいですm(_ _)m (2019年6月16日 22時) (レス) id: 09e4b51586 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:涼 | 作成日時:2019年6月14日 20時