56章 ページ9
散々痛めつけられて、意識が朦朧としてきた辺りで周りに感じる気配が増えた。
「愚妹を捕まえた。これで良いんだろ?」
「あぁ、よくやった。約束通りお前も幹部職に就けるよう上に口添えしてやろう」
会話の中身からして、周りに居る連中が春雨の奴らだとわかった。
数はざっと十数人、といったところか。
「若い女の翠狼族か。血で汚れちゃいるが、毛並みも良さそうだし洗えば良い値が付きそうだ」
「何でも良いから、こいつ早いとこ連れてってくれよ。時間置いて回復されても面倒だし、これ以上視界に入れとくのも嫌なんでな」
そんな声が聞こえると同時に、兄上のにおいが遠ざかっていった。
多分船の中にでも戻ったんだろう。
…そんなにも、私は兄上に嫌われていたんだ。
もう悲しいなんて感情は湧いてこなかった。
私も随分薄情らしい。
「それもそうだな。ご苦労さん」
兄が居なくなったとはいえ、散々に痛めつけられた体は上手く動いてくれない。
狼化すれば縄くらいは簡単に千切れるだろうが、半化けする体力すら残っていないこの状況じゃそれも無理だ。
逃げることは難しいだろう。
そんなことを考えていたら、視界の端に見えた銀色の鎖。
あぁ、またあれで繋がれるのか…でももう、どうでも良い。
真選組を追い出させて、家族にも見限られて…私にはもう、どこにも行く宛てなんて無いんだから。諦めて目を閉じた、その時。
「ぎ、ぃああああああ!?」
「があッ!?」
「な、何だてめッ…ぐぁああああ!?」
聞こえてきた男達の謎の悲鳴。それに続く形で液体が派手に噴き出すような音がして、血のにおいが辺り一面に充満していった。
「何…?」
霞む目を薄っすら開けると、そこに映ったのは…
「…マス、ター……」
ここ数ヶ月ですっかり見慣れてしまった黒い隊服に、薄暗い中でもわかる色素の薄い栗色の髪。
右手に煌めく銀色を携えた私のマスター、沖田総悟…その人だった。
「てめーら、俺の犬に何してやがる」
88人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
影咲 遥(プロフ) - 天藍さん» 天藍様、コメントを頂きありがとうございます!あわわわ、この短期間で2周もしてくださったんですか!?ありがとうございますとても嬉しいです。お気に召して頂けたようで何よりです、是非他の作品も読んでやってくださいませ! (2018年4月18日 18時) (レス) id: d73cf733f9 (このIDを非表示/違反報告)
天藍(プロフ) - 完結おめでとうございます!これ、すっっっっっっごく好きです!昨日見つけてからもう2周しました!この小説に出てくるキャラも、作者さんも、大好きです! (2018年4月18日 18時) (レス) id: 1e59b8b255 (このIDを非表示/違反報告)
影咲 遥(プロフ) - 夜空さん» 夜空様、神作だなんて恐れ多いですが、そんな風に思って頂けてとても嬉しいです!まさかお兄ちゃんのことも好きになってくださるとは、何と心の広い…きっとどこかで彼も幸せになることでしょう。そんなお話も書けたら良いなぁ…。コメントありがとうございました! (2018年4月16日 0時) (レス) id: d73cf733f9 (このIDを非表示/違反報告)
夜空 - 完結、おめでとうございます!!何という神作…。夢主ちゃんのお兄ちゃんも私的には結構好きだな。この作品では敵キャラですけど、彼にも色々あったんでしょうね…。彼も含めて皆、幸せになってくれることを願います。素晴らしい作品をありがとうございました! (2018年4月16日 0時) (レス) id: dc393f385a (このIDを非表示/違反報告)
影咲 遥(プロフ) - 夜空 星月さん» 星月様、顔面崩壊させてしまい申し訳ありません(笑)物語として語られない部分で、きっと沖田君が夢主ちゃんを幸せにしてくれる筈です!…ドSながらに。こういったコメントを頂けると、このお話を書いて本当に良かったなと思えます。コメントありがとうございました! (2018年4月15日 16時) (レス) id: 6088c20e27 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:影咲 遥 | 作成日時:2018年3月30日 12時