４★大切なひと ページ4
先生の話を聞いてる間にAさんは個室に移されてて、
俺はその病室に案内されてからずっと、
ベッドに横になってるAさんをぼんやり見てた。
なんか妙に懐かしいっていうか…
こういうこと、今までにも何度かあったよなぁって。
(Aさん…)
椅子にもたれたまま、
足を投げ出して天井を見上げた。
さっき先生に聞いた話が頭ん中をぐるぐる回ってる。
俺から話すから大丈夫ですなんて言っちゃったけど、
(どっからどう話すんだよ…)
切り出し方なんか全然分かんない。
それに、仮にちゃんと話せたとしても…
俺の話を聞いた後のAさんの気持ち。
それを考えたら胸が潰れそうで、
「ん…」
「あ…Aさん？」
俺の声にAさんがフッと目を開けた。
明るい電灯に目をしぱしぱさせてる。
「俺だよ、分かる？」
「ま…くん…あの、ここって…」
「ん、病院だよ」
ふぅって深くため息をつくと、
ごめんなさいってAさんが申し訳なさそうに呟いた。
全然いいのにな、そんなの。
だって大事なAさんのためだもん。
Aさんに何かあったら俺…
「まぁくん？」
心配そうな声に小さく首を振って、
Aさんの髪をゆっくり撫でながら切り出した。
「…あのねAさん」
「はい？」
「今…２ヶ月なんだって」
「…え……？」
「赤ちゃん。いるんだって、お腹に」
丸くなってたAさんの目に、
じわっと浮かんできた涙があっという間に溢れた。
そうだよね、嬉しいよね。
前の時はあんな辛い思いして、
いっぱいいっぱい泣いて…
「…Aさん…」
俺だって嬉しいよ。
すげぇ嬉しい。
けど。
その気持ちは同じでも、
「まぁくん？ え…どうしたんですか？」
俺の涙と、
Aさんの涙は違うんだ。
「ごめんね…」
俺はこれから言わなきゃならない。
すごく残酷なことを。
「あのねAさん…よく聞いて」
だって、俺はAさんが大切だから。
何よりも…
誰よりも。
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作者名：薫子
| 作成日時：2017年12月15日 17時
