２７★震える指先 ページ27
「ハワイ…明後日から、ですね…」
「…うん」
正直心配で心配で仕方がない。
こんな状態のAさんを残して、
よりによって１週間以上も日本を離れなきゃならないなんて。
「お土産、何がいい？
自由時間もね、ちょっとはあると思うから」
けど俺が行かないなんてことはあり得ない。
それこそ…何があっても。
「ふふ…そうですねぇ」
ちょっとだけ嬉しそうに微笑んだAさんが、
ふうってため息をついた。
「大丈夫？ 気持ち悪い？」
「あ、いえ…まぁくん、お水もらっていいですか？」
「うん。待っててね」
ベッド脇のペットボトルからグラスに水をうつす。
重くなりすぎないように、
入れるのはほんのちょっと。
「はい」
「ありがとうございます」
渡したグラスを受け取ろうとするAさんの手は、
気のせいってレベルじゃないほどブルブル震えてる。
「…おいしい」
ふた口ぐらい飲んだAさんが、
笑ってくれたのを見て涙が出そうだった。
「ホント？ よかった」
こないだのパニックの発作以降、
幸いにも同じようなことは起きてなかったけど、
『切迫、流産…？』
『はい』
新しい危険が加わったってことを、
あの日宮本先生から聞いた。
ほんのちょっとのことで、
いつ赤ちゃんが産まれちゃうか分かんないって。
『今後は２４時間薬を使って抑えていくことになります』
『２４時間？』
もちろん今の時点でそんなことになったら、
赤ちゃんが外の世界で生きてけるわけがない。
だからずっと点滴して赤ちゃんが出てこないようにするんだけど、
その副作用がまたひどかった。
『Aさ…手、どうしたの…』
手足の震えに動悸に吐き気…
個人差があるとは聞いてたけど、
素人の俺から見たってAさんの症状は一番重いに決まってる。
『あの、いつまでこんな感じなんですか？』
見かねてこっそり先生に聞いたけど、
『…症状に改善が見られなければ…
出産までずっとです』
返ってきた答えは絶望的だった。
出産までって…
だってそんなの、あと何ヶ月あると思ってんだよ。
『同じ効果の薬が何種類かありますので、
一番体に負担が少ないものを使っていきますね』
先生はそう言ってくれたけど、
楽になってるようには正直見えない。
「あ、まぁくん」
「ん？」
「お土産の話ですけど」
「えっ？ ああ、うん。
何がいい？」
ねぇAさん。
何の力にもなれなくて、ホントごめんね…
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作者名：薫子
| 作成日時：2017年12月15日 17時
