パルファムの夢【BLオリジナル】 (ページ2)

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「真、俺先行っとくから。」

いつもなら「うん、後で〜」と返ってくるが今日はその返事はなかった。代わりに踵を返そうとした腕を掴み、こちらを見つめていた。

その瞳はどこか助けを求めているような、懇願するような色をしている。

「折角だし、今日は肇くんも一緒に社長とお話しようよ〜。ほら、コミュニケーション。最近、肇はあんまり社長さんと喋ってなかったよね。」

やけに強く掴まれた腕と、どこか真から滲んだ焦燥感を不可解に思いながら、方向を変えた足先を元に戻した。

「あはは、肇と真は仲が良いんだなあ。」

「はい！そりゃめっちゃ仲良いですよ。今日だってね、この後二人でご飯行こって話してたんで。」

いや、仕事の有無まだ確認してないんだけど……という言葉を飲み込み、まあどうせないだろうしということで、真の「ね〜」という問いかけにこくりと頷く。

「そうかあ。じゃあ今夜は無理なんだな。」

「あは、すみません〜。でも、やっぱり一緒に仕事をしていく肇との時間も欲しいんです。」

俺のことなんか気にしないで行ってきたら良いのに……。
俺は真が好きだ。真面目でひたむきで、研修生の頃から誰よりも努力家だった。だから歌もダンスも凄く上手いし、ビジュアルもずっと綺麗に保ってる。
だけどそれ故に嫉妬していた。社長に凄く気に入られていることも、何もかもを完璧にこなすことができる能力にも。どちらも努力故の賜り物と理解はしているけれど、俺だって血の滲む様な努力はしてきたのに。

だから、つい。

「いや、俺より社長との予定優先しなよ。気にしないでもらっていいから。」

と、抑えるはずだった胸中の言葉を吐いた。

真の何が俺の腕を掴ませたのか、その時は何も知らなかったから。ただ、ここまでの恵みを受けておいて真は「逃げたい」のだと、それだけはしっかりと理解した俺は、こいつに対する嫉妬を形にしてしまった。

真は「え……」と、隣にいた俺でもやっと聞き取れたような小さな声で動揺を漏らした。

「肇、良いのか？」

「よく考えたら今日、母さんと会う約束してたんで。大丈夫です。悪いな、真。」

無論、嘘である。
真と食事に行く予定ではあったのに、こころなしか少しは楽しみにしていたのに、収録前に突きつけられた俺と真との格差のせいで、醜い嫉妬のせいで。この時俺は真を裏切ってしまったんだ。

そして、このことが原因で、真の心にヒビが入るとは知る由もなかった。