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1.雨音 ページ1

俺達は、俗に言う「アイドル」だった。
名前は「フェアビアンカ」。二人の白馬の王子様、みたいなニュアンスでつけられたものだ。

俺と相方、二人でユニットを組んで、二人三脚でデビューした。芸能界は厳しいけれど、一生懸命下積みをした自分達には他にはない糧があり、それなりに売れることができている。

事務所もまあ、世間的には知られているかな程度の中堅で、大手ってほどではないけど、社長も良くしてくれるし特に不満はなく日々を過ごしていた。

冠番組も持っており、今日はその撮影があった。いつも通りヘアセットとメイクをやってもらって、楽屋を出ようとする。

「あ、肇(はじめ)。ちょっと待って。」

名前を呼ばれてピタ、と足を止める。声をかけてきたのはスタッフではなく、相方の真(まこと)。フェアビアンカを一緒に育ててきた唯一無二のビジネスパートナーだ。

「襟、曲がってんぞ。これじゃ折角の男前が〜」

真は口を尖らせ俺の襟首にそっと手をやった。
彼からは今日も、甘い、けれど上品な薔薇の香りがする。いつも同じ匂いが彼からは漂っていた。
きっちりシャツの襟を整えると、満足そうに「よし」と笑う。

「ほら、できた。スタジオ行こ。」

「どーも」

ガチャ、と楽屋のドアを開けて収録するスタジオに足を運んだ。道行く途中、スタッフに「お疲れ様です」と挨拶をしながら真とも少し話す。これが日常で、デビューからずっと変わっていないルーティーンのようなものでもある。

「肇はこの後も仕事あんの?」

「あー、どうだったかな。なかった気がするけど。マネに聞いてみないとわかんねえや。」

「あらほんと〜、なかったらご飯でも誘おうと思ったけど。」

「ん、なかったら行こ。あってもメシくらいいつでも付き合うし。」

ふふ、楽しみ〜、なんて真が言っていたら、後ろから真を呼ぶ声がした。聞きなれた低い声。振り返るとそこには社長が。

「ああ、肇もいたのか。」

「ええ、まあ。というかフェアビアンカの番組収録ですし。」

「そりゃそうだな!」

ガハハ、と笑う社長に応じるように真がくすくす笑う。正直俺は何もおもしろくない。
社長、良くはしてくれるけど、明らかに真を贔屓しているのが伺えて少し苦手ではある。

この二人がかち合うと、俺はいつも蚊帳の外で何して会話が終わるのを待てばいいかわからない。だからここ最近は、真に「先行っとくから」と声をかけてスタジオに向かっていた。

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作者名:Me | 作成日時:2021年9月23日 18時

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