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12.それぞれの危機 ページ22


「太宰が行方不明ぃ?」

とある日の午前、各々が少し早めの休憩に入っている中。国木田さんの至極どうでもよさげな声が事務所内に響いた。

「電話も繋がりませんし、下宿にも帰っていないようで」

そう訴えたのは、国木田さんとは対照的に心配そうな表情を浮かべた敦さんだ。だが、私含め他の探偵社員の心は微動だにせず、しら〜っとした空気が流れるばかりで、誰一人深刻に捉えようとはしない。

(何せ四年もこの横浜で過ごしておいて、マフィアから逃げ切ってる人だし……)

それなのに、今更誘拐などの危険な状況に陥るなんてヘマをやらかす訳がない。あの訳の判らない頭脳明晰さだ、それだけは絶対にあり得ないだろう。
わざとそうなるか、彼と同等かそれ以上の相手でも現れない限りは。

(…あ、でも今更自 殺に成功したとかならあり得るかも知れない)

ふと思いついたそればかりは否定出来ず、心配がもやもやと渦巻き始める。考えてみれば、逆にあれだけ自 殺未遂を繰り返していて失敗を繰り返している方がおかしいのだ。
何かの加護――太宰さんにとっては呪いだろうが――でもあるんじゃないかと疑うくらいには。

そんな中、国木田さん達はやる気の無い声で適当に「川」とか「土中」とか「拘置所」とか、およそまともな人間が入ることのない場所を含めた行き先予想を次々に述べていく。
成る程彼ならあり得る――とうっかり流しかけ、私は慌てて思考を引き戻した。

「あの人拘置所入れられたことあったんですか?」

乱歩さんの予想にツッコむと、「そうだよ〜」とソファに寝そべった彼は間延びした声で答えた。

「確か何かで不審者扱いされて連行されたんだよね」
「あぁ……なるほど」

思い当たる節が多すぎて、私は深く納得した。どうせ何らかの自 殺を試しているところや、女性を心中に誘っているところを通報されたのだろう。
私でさえ再会した当初は通報してやろうかと思ったくらいなのだ。一般人が実行しても不思議は無い。

(本当にあの問題児を置いている探偵社の懐の深さというか、変人耐性ってすごい)

多分、恐らく、なかなかない環境だと思われる。太宰さんはもう少し社長や国木田さん達に感謝をするべきではなかろうか。

12-1→←Emptiness



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霜夜華(プロフ) - ミオさん» ありがとうございます!大好きと言って頂けて本当に嬉しいですヽ(*´∀`)ノ頑張って更新しますね! (2020年3月12日 7時) (レス) id: 647614d598 (このIDを非表示/違反報告)
ミオ(プロフ) - このシリーズ、本当に大好きです。続編も楽しみに待ってますね! (2020年3月12日 7時) (レス) id: 181d62af7c (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - (^ー^)さん» 誤字ですね!すみません、修正します!ご指摘ありがとうございますー( ´ ▽ ` ) (2019年12月12日 1時) (レス) id: fee3f25fa7 (このIDを非表示/違反報告)
(^ー^)(プロフ) - 広津さんが弘津さんになってます。 (2019年12月11日 23時) (レス) id: db654e8536 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:霜夜華 | 作成日時:2019年11月28日 1時

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