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「……そうか」

嘘くさい笑みを初めてそれらしい柔らかなものへと変えた太宰さんは、少しの間黙っていたが、やがてぽつりと一言呟く。
安堵のような、慈愛のような。たった一言だが、まるで包み込むように柔らかい其れは初めて聞くもので、私はほんの少しだけ戸惑った。そんな私に太宰さんは手を伸ばすと、その指を私の髪に滑らせる。

「随分かかったね。君の場合、監視が相当厳しかったからだろうけれど」
「……。そう、ですね」

マフィアから抜け出すのは容易ではない。訳あって監視が通常より断然厳しかった私ならば尚のこと。だからこそ確実に逃げ出す機会を伺っていたら、脱走を決意してから四年の月日が経っていた。……あまりに時間が、掛かりすぎた。

(もう、どれだけの人を――)

ふ、と暗い感情に支配されかけた時、「そういえば」と太宰さんが声を発し、私はいつの間にか落としていた視線を上げる。

「君、左腕のは?」
「左腕?」
「ここの」

何の事か判らず首を傾げる私に向けて、太宰さんは自身の左の下膊(かはく)をトントンと叩いた。

「……あぁ、アレ(・・)ですか。問題ありません」
「ならよろしい」

彼は安心したようににこりと微笑んだが、その件に関して私は一つもの申したいことがあった。しかし残念ながら、云おうとした矢先に誰かが倉庫へと近づいて来た為、諦めて入り口を振り返る。

「早苗?」
「誰か来ます」
「あぁ、国木田君かな。相変わらず凄い気配感知だねぇ」

話している間に駆けてくる少し硬い靴音が聞こえ始め、やがて太宰さんの予想通り国木田さんが現れた。

「おい、太宰!」
「ああ、遅かったね。虎は捕まえたよ」

ピッと太宰さんに示された気絶している中島さんを見た国木田さんは、此方に駆け寄ってきながら軽く目を見張った。

「その小僧……。じゃあそいつが」
「うん。虎の能力者だ。変身してる間の記憶が無かったんだね」

淡々と答えた太宰さんに、国木田さんは溜息を吐きながら頭を掻いた。

「全く――。次から事前に説明しろ。肝が冷えたぞ」

そう云いつつ彼が取り出したのは、茶屋で太宰さんが渡した紙だった。其処には綺麗な字で『十五番街の西倉庫に虎が出る。逃げられぬように周囲を固めろ』と記されている。
あの場面で渡された国木田さんは訳が判らなかったのではないだろうか。それなのに何も云わなかったということは、何だかんだで太宰さんを信頼しているのだろう。……多分。

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霜夜華(プロフ) - 有彩さん» 遅れましてすみません!公開しました!そしてお褒め下さってありがとうございます(*^_^*) (2019年11月28日 1時) (レス) id: 64f91c64f2 (このIDを非表示/違反報告)
有彩 - とても面白くい作品です!!続編が、楽しみです!何日くらいに、なるのでしょうか! (2019年11月28日 0時) (レス) id: b0517c2008 (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - 細波幸近さん» ありがとうございます!のんびりですが、続きも頑張って書いていきますね!(*´ω`*) (2019年11月16日 21時) (レス) id: fee3f25fa7 (このIDを非表示/違反報告)
細波幸近(プロフ) - いつも読ませて頂いています!とても面白会です! (2019年11月16日 21時) (レス) id: a768fd0174 (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - かぼすジュースさん» ありがとうございますー!ノロノロ更新ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです! (2019年8月5日 22時) (レス) id: fee3f25fa7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:霜夜華 | 作成日時:2019年6月10日 15時

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