検索窓
今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:1,533 hit

月光とダンス/一話 ページ2

『……は?』

「だから、見られたんだってば。犯行現場を」

『……見られたって……あんた、事の重大さわかってるわけぇ!?』

 わかってるに決まってるじゃん、と言いたげな顔をしたが、インカム越しの人物に油を注ぐことを避けたがったのか、彼は言葉を飲み込んだ。代わりに、大丈夫と伝える。

「計画に狂いはないよ。『獲物』はス〜ちゃんに渡した後だったし、目撃者はひとりだけ。しかも」

 そこで赤い視線が下へと降りる。地面に転がっているのはいたって平凡、どこにでもいるだろう女だ。つまり、私である。

「ただの女の子だから。まあ、だから難しいんだけど」

 すっと瞳が細められる。愛しさから来た仕草でなく、どう料理してやろうかという鋭利すぎるものだった。しかしすぐに周囲の夜景へと視線を逸らし、手持ち無沙汰に足をぶらぶらさせる。

『その女、どうしてるの』

「気絶してるよ。……でも運の悪いやつだねぇ」

『運の悪いのはどっちなの。もう現場から脱出してるんでしょ? とにかく早く来てよね』

「りょ〜かい」

 通話が切れる。となれば彼の意識は自然にこちらへと向く。
 彼は少し迷ったようだったが、すぐに私の身体を姫抱きの要領で持ち上げる。その浮遊感は私を気絶から解放させてはくれなかった。

「こういうのはス〜ちゃんとかエッちゃんの役目でしょ〜……お姫様抱っことか俺がされる側だし」

 愚痴をこぼしながら、彼はそのまま歩んでいく。夜風が闇色の髪先を揺らした。
 今度は迷いなどなかった。彼は私を抱えたまま、夜景の海に飛び込んだのだ。

月光とダンス/二話→←プロローグ



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (2 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:群青と星屑 | 作成日時:2019年1月21日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。