月光とダンス/一話 ページ2
『……は?』
「だから、見られたんだってば。犯行現場を」
『……見られたって……あんた、事の重大さわかってるわけぇ!?』
わかってるに決まってるじゃん、と言いたげな顔をしたが、インカム越しの人物に油を注ぐことを避けたがったのか、彼は言葉を飲み込んだ。代わりに、大丈夫と伝える。
「計画に狂いはないよ。『獲物』はス〜ちゃんに渡した後だったし、目撃者はひとりだけ。しかも」
そこで赤い視線が下へと降りる。地面に転がっているのはいたって平凡、どこにでもいるだろう女だ。つまり、私である。
「ただの女の子だから。まあ、だから難しいんだけど」
すっと瞳が細められる。愛しさから来た仕草でなく、どう料理してやろうかという鋭利すぎるものだった。しかしすぐに周囲の夜景へと視線を逸らし、手持ち無沙汰に足をぶらぶらさせる。
『その女、どうしてるの』
「気絶してるよ。……でも運の悪いやつだねぇ」
『運の悪いのはどっちなの。もう現場から脱出してるんでしょ? とにかく早く来てよね』
「りょ〜かい」
通話が切れる。となれば彼の意識は自然にこちらへと向く。
彼は少し迷ったようだったが、すぐに私の身体を姫抱きの要領で持ち上げる。その浮遊感は私を気絶から解放させてはくれなかった。
「こういうのはス〜ちゃんとかエッちゃんの役目でしょ〜……お姫様抱っことか俺がされる側だし」
愚痴をこぼしながら、彼はそのまま歩んでいく。夜風が闇色の髪先を揺らした。
今度は迷いなどなかった。彼は私を抱えたまま、夜景の海に飛び込んだのだ。
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作者名:群青と星屑 | 作成日時:2019年1月21日 17時