うつりゆくおもい『ぬら孫 ifストーリー』

第九話 ページ9

そーっと忍び込み……なんてことはせず、明鏡止水を使って堂々と入室する

この技、覗きのために使われるんじゃねえかとこうするたびに思う

見えない聞こえない感じられない

逃げるのにも忍び込むのにも最適な技だ

そのまま一個だけ使われている籠を覗き込むと綺麗に畳まれた洋服、携帯、財布

きちんとしてるよなーと感心し風呂場に入った

シャワーの音がするので今浴びているのだろう

そっちを覗けば……いた

その裸体を見た時、俺は思わず呟いた

「何だよ……あれ」

体温が下がるような気がした

あいつの、紅葉の身体には無数の傷跡が刻まれていた

昔に付けられた傷からつい三日前程に付けられた完全に治っていない傷もあった

刃物で斬られたような傷から何かで抉られたような傷まで様々な傷だったがそれらに共通するのはどれも死ぬような致命傷の跡だということだ

今もまだ完全に塞がらない傷口から血が滲み出している

それらが示す事実

紅葉はついこの間まで誰かに暴行を加えられ続けてきた

じゃああいつは逃げてきたのか？

そんな考えが思い浮かぶがすぐさま有り得ないと否定した

紅葉の身なりは逃げてきたとは到底思えないほどきちんとしていたし金も携帯もある

それに不気味なほど落ち着いている

もし逃げてきたのならば身一つでだろうしあそこまで落ち着いているわけがない

考えれば考えるほどに紅葉という存在がわからなくなっていく

「あーもうぐだくだ考えるのやめて聞きゃあいいんだ始めっから」

もうめんどくさいと思いそう心に決め観察を続けた

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